偽装請負: 「正社員混在」で判断せず 厚労省通達、法令と矛盾

2009年4月9日 毎日新聞 大阪朝刊
 
「偽装請負」の一つの判断指標とされてきた「(メーカーの)正社員と請負労働者が一つの製造ラインに混在する」という点について、厚生労働省が適法と見なす趣旨の見解を示していることが明らかになった。支援者らは「再び偽装請負が横行する」と反発。非正規労働者で組織する「全国ユニオン」は10日、厚労省に見解の撤回を申し入れる。【日野行介】
 
見解が示されたのは、厚労省が先月31日に示した通達「『労働者派遣事業と請負により行なわれる事業との区分』(37号告示)に関する疑義応答集」。同省の職業安定局長から各労働局長あてに出され、偽装請負かどうかを判断する指標を具体的に示している。この中で、「(メーカー社員と請負労働者が)混在しているだけでは偽装請負と判断できない」と明示。その上で「混在が原因で、発注者が請負労働者に直接指示すれば偽装請負になる」とした。
 
しかし現状では、同一ラインに混在していれば、労働局から「偽装請負」として是正指導されるケースが多く、今回の見解はこうした判断指標に反する。今後、偽装請負が再び横行する可能性もあり、10日に撤回を申し入れる全国ユニオンに加盟する「派遣ユニオン」の関根秀一郎書記長は「偽装請負として禁止していたケースも適法と認める通達だ」と批判する。
 
また職業安定法の施行規則では、適法な請負について「(請負会社は)労働者に対するすべての義務や責任を負う」と規定。労働者の混在を認めることは、こうした法令にも矛盾を来すことになる。厚労省需給調整事業課は「今まであいまいだった部分を具体的にしただけ。解釈を変えたのではない」としている。
 
 ◇再び横行の恐れ−−龍谷大の脇田滋教授(労働法)の話
(偽装請負かどうかは)請負会社に実態はあるのか、メーカーから独立して労働者に対する責任を負えるのか、という点で判断すべきだ。しかし通達は請負の労働者に対する指示の問題にわい小化している。労働者が混在しているのに物理的に独立性が保てるはずがない。これでは偽装請負が再び広がるだろう。
…………………………………………………………………………………………………………
 ■ことば
 ◇偽装請負

 本来は発注元のメーカーから独立して業務を行うべき請負会社の労働者が、メーカーの指揮下で仕事をする行為。メーカーにとっては、雇用者としての責任を負わずに低賃金で働かせることができ、人員削減も簡単に行えるため、90年代以降広がった。職業安定法や労働者派遣法に抵触する。

この記事を書いた人