日本経済新聞 2010年5月28日
政府目標「20年までに」
政府は企業が従業員に支払う義務を負う最低賃金について、景気状況に配慮しつつ2020年までに全国平均で時給1000円を目指すとの目標を策定し、実現時期を大幅に先送りする方針を固めた。都道府県ごとに異なる最低賃金の下限を早期に800円に引き上げることも明記する。民主党は昨年の衆院選マニフェスト(政権公約)で全国平均で1000円を目指すとの目標を打ち出していたが、企業収益への影響などに配慮して現実路線に転換する。
政労使などでつくる雇用戦略対話で決め、6月にまとめる新成長戦略に盛り込む。民主党は衆院選マニフェストに、景気状況に配慮しつつ、全国平均で1000円を目指すことと800円を想定した「全国最低賃金」の設定を盛り込んだが、実現時期は明記していない。ただ最低賃金制度を所管する厚生労働省の細川律夫副大臣が最低賃金を800円に引き上げるための法案を11年度国会に提出する意欲を示すなど、次期衆院選までに実現させる意向を示唆していた。
政府が20年までという目標を設けることで、結果的に実現時期を遅らせる形になる。08年秋の世界的な金融危機以降の急速な景気後退を受け、早急な引き上げは企業活動への悪影響が大きいと判断したもようだ。
09年度の最低賃金は全国平均で時給713円。最高は東京の791円、最低は沖縄などの629円だった。地方では最低賃金で従業員を雇う飲食店や中小企業も少なくない。企業の生産性が高まらない状態で賃金を引き上げれば、単なる人件費の増加につながり、経営が圧迫される。
最低賃金を巡っては、労働組合側が働いても自活できない「ワーキングプア」を救済するために引き上げを強く求めている。
一方、経営側は企業が人件費を抑制するために採用を減らすことで雇用の喪失につながるとして、引き上げに難色を示していた。