毎日新聞 2014年12月09日 07時30分(最終更新 12月09日 12時19分)
厚生労働省は公的年金改定率の算定方法を見直し、デフレ下で現役世代の賃金が下がった場合、年金の減額幅を拡大する検討に入った。早ければ2015年度中に関連法を見直す。同時に、年金の伸びを物価や賃金の伸びより抑制する「マクロ経済スライド」も、デフレ下で機能するよう改める考えだ。いずれも年金財政の健全化が狙いで、減額幅は今より拡大する。
年金改定率は原則、物価と賃金の増減に連動する。既に受給している人の改定率は前年の物価に、新たに受給し始める人の改定率は過去3年の現役世代の賃金動向に連動。インフレ局面で物価の伸びが賃金を上回る場合は、ともに上昇率の小さい賃金に連動した年金改定率となる。
ただ、デフレ下で賃金減少率が物価下落率を上回る場合、物価にそろえる仕組みになっている。賃金の減少局面でも年金の目減りを抑え、高齢者の暮らしを守るためだ。しかし、デフレが長引いたことで、現役の賃金に比べて年金が高止まりする一因となっており、厚労省は見直しに着手する。
デフレ下で物価より賃金の下げ幅が大きければ、賃金減少率に合わせて年金を減らす。また現在、物価がプラスで賃金がマイナスならば年金は据え置かれるが、この場合も賃金に合わせて年金をカットする。
厚労省はこれに併せて、年金の増加率を少子高齢化による年金財政悪化分(14年度1.1%)だけ抑えるマクロ経済スライドを、物価や賃金が下がった時は適用できない現行制度を見直し、デフレ時にも適用可能とする意向だ。
物価がマイナス1%、賃金がマイナス2%の場合、現在の年金の減額幅はマイナス1%だが、改定率の見直しで賃金連動のマイナス2%となる。さらにマクロ経済スライド分が加われば、年金額はマイナス3.1%となる。
安倍政権は2%の物価上昇目標を掲げており、10月の消費者物価指数は0.9%上昇した。デフレは当面遠のいたとの見方もあるが、厚労省は「年金受給者の痛みを伴う話。物価上昇局面の方が議論に入りやすい」と判断した。【吉田啓志】