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2015/12/5 日本経済新聞 電子版
政府はパートで働く主婦などが労働時間を増やすための支援をする。就労時間の延長と賃上げを条件に企業に補助金を配り、社会保険料の負担を和らげる。対象は20万人程度のパート労働者になる見通し。社会保険料負担を懸念して働く時間を減らす動きを抑え、人手不足の緩和につなげたい考え。ただ2019年度までの一時的な政策となる。専業主婦世帯などを優遇する配偶者控除の見直しを含む税制と一体の本格改革が急務だ。
厚生労働省や財務省などが調整しており、塩崎恭久厚生労働相が7日の経済財政諮問会議で表明する。
年収が130万円を超すと年金や医療の保険料が20万円近くかかるようになる。働く時間を抑制する「130万円の壁」と呼ばれる。16年10月から従業員501人以上の企業では厚生年金や健康保険の加入基準が変わり保険料が発生する年収基準は130万円から106万円に下がる。諮問会議は「人手不足が一層深刻になる」と厚労省に対応を求めていた。
今回の対策は16年4月から19年度までの4年間実施する。(1)大企業で2%、中小企業で3%以上の賃上げ(2)パート労働者が働く時間を週5時間以上延長――などが条件。労働時間の拡大に対してパート労働者1人あたり20万円、賃上げ率に応じて2万円以上の補助金を支給する。
社会保険料は労使折半で、パート労働者の収入が130万円を超すと、企業側にも社会保険料の負担が発生する。企業は配られた補助金で社会保険料の負担増を抑えられる。労働者も賃上げ分で社会保険料の負担を抑えられ、手取り収入の減少を緩和できる。収入に比例して受け取る年金も受給できるようになる。
現在、時給1000円で週20時間働くと年収は104万円。社会保険料もないため手取り額も同じ104万円だ(税金は計算の対象外とした場合)。新制度の適用を受け1030円の時給で週25時間働く場合、年収は約30万円増の133.9万円。社会保険料の19.4万円を引いた114.5万円が手取り額となり、104万円を上回る。
補助金の支給は都道府県ごとで1事業所あたり最大600万円が上限になる。財源は特別会計の雇用保険を活用し支給額は4年間で約400億円を見込む。
ただ、今回の給付金事業は19年度までの緊急対策との位置付けだ。対象となる20万人は約1600万人のパート労働者の1%強にすぎない。「雇用保険の積立金が余っているなら保険料を引き下げる形で企業や家計の負担を減らすのが筋だ」との議論も根強い。
専業主婦世帯の就労を阻む要因としては、年収103万円以下の専業主婦世帯の税負担を軽くする配偶者控除の見直しも課題となっている。政府・与党は配偶者控除見直しなどの所得税改革を来年以降に先送りする。
政府は企業が独自に支給する配偶者手当の見直しも促す構えだが、税と社会保障の一体改革に基づく制度の見直しを進めない限り企業側の動きも停滞しかねない。
▼130万円の壁 パート労働などの収入が130万円を超えると、正社員と同じ給与所得者として位置づけられ、厚生年金や健康保険など社会保険料がかかる。主婦層が手取り額を減らさないように労働を抑える要因とされ「130万円の壁」と呼ばれる。収入が103万円を超えると、専業主婦がいる世帯の所得税を軽くする配偶者控除が受けられなくなる「103万円の壁」もある