広がる給与前払いサービス 流通や製造業界など 若者ニーズに応え
毎日新聞2019年5月20日 20時00分(最終更新 5月21日 00時21分)
給与前払いのイメージ
流通や製造業界などで、従業員の求めに応じて給与を前払いするサービスの利用が広がりつつある。人手不足が深刻さを増す中、貯蓄の少ない若者らのニーズに応え、従業員の確保を目指す企業が増えているためだ。月単位が主流だった給与の払い方が大きく変わる可能性もある。
金融とITを融合させたフィンテックベンチャーの「ドレミング」(福岡市)は、勤務記録と前払いを一括管理するソフトを2015年から企業に無料で提供している。従業員の勤務時間をリアルタイムで把握し、その時点までに働いた分で前払いが可能な給与額を算出する。利用企業は流通や製造業などを中心に国内で約200社に達する。
フィンテックベンチャーの「BANQ」(東京都千代田区)は昨年10月、スマートフォンで給料前払いを申請し、ATM(現金自動受払機)などで引き出せるサービスを始めた。ジャパンネット銀行と提携したもので、24時間365日の利用が可能。導入企業の従業員は、働いた分の7割を上限に、1回当たり手数料495円で2万円まで引き出せる。
前払いや日払いは、建設業や派遣業などで盛んだったが、人手不足が深刻な流通や小売り、飲食業などでも拡大している。アルバイト検索サイト「バイトル」によると、「日払い可」で求人する企業数は、17年9月の7万3000社から今年3月には10万5000社へと約1・5倍に増えた。こうした企業の中では前払いサービスを利用する企業が多いとみられる。
前払いサービスの提供会社も数十社あるといい、BANQの高橋宗貴社長は「これからは給料がオンデマンドに支払われる時代になる」と話す。
前払いサービスは、初期の蓄えが少ない外国人労働者でも需要があるとみられる。政府は入管法改正を行い、今後5年で最大約35万人の外国人労働者受け入れを可能にした。一方で電子マネーによる給与払い解禁も検討中。実現すれば、銀行口座を持たない外国人労働者らに随時、電子マネーで給与を支払うことも可能になる。
前出のドレミングは「世界に20億人いる銀行口座を持たない人々に金融サービスを提供する」ことを目指し、海外の5カ国で給与前払いサービスを展開中。鈴木竜也取締役は「真面目に働いた労働者が借金に頼らなくてよくなる」と語る。一方で、大和総研の森駿介研究員は「前払いはカードローンの代替として有効だが、結果的に使い過ぎを招かないか警戒が必要だ」と注意を呼び掛けている。【深津誠】