「将来実現が望まれる政策だ」/自民党の最賃議連会合/全国一律制で町村会会長
連合通信2019年5月24日
地域別最低賃金の全国一律制実現をめざす自民党の議員連盟は5月22日、国会内で1カ月半ぶりに会合を開いた。全国町村会の荒木泰臣会長(熊本県嘉島町長)にヒアリングを行い、同会長は「全国一律制は将来的には実現が望まれる政策課題だ」との見解を表明した。同議連はこの日、中間的な論点整理案を公表。「生計費調査に基づく最賃水準の検討」などを今後の論点に挙げている。
同議連はこれまで、元米金融大手社員で最賃について提言しているデービッド・アトキンソン小西工藝社長による講演や、日本弁護士連合会、厚生労働省、全労連のヒアリングを行ってきた。
荒木会長は、同会の最賃担当者約20人に全国一律制について聞いたところ、賛否両論が示されたと報告。中小企業の経営体質の強化や、段階的引き上げと激変緩和措置を前提に「人口流出を抑止し、定着を促す利点がある。将来的には実現が望まれる政策課題だ」と語った。
一方で、「安易な一元化はさらなる脆弱(ぜいじゃく)化を招きかねない」とも述べ、地方の中小企業への十分な配慮を繰り返し求めた。
衛藤征士郎会長は「450兆円近くある一部上場企業の内部留保が自然に流動して、下請け、中小零細企業、国民に移行していくにはこれ(全国一律)しかない。生産性向上、賃金のベースアップによる経済好循環実現の起点は最低賃金だと思う」と述べ、「経済の底上げへ、全国926の町村が動けるかどうかにかかっている。ぜひ町村会にも頑張ってもらいたい」と〃共闘〃を呼びかけた。
●生計費調査を重視
同議連はこれまでのヒアリングを受け、中間的な論点整理案を示した。最賃制度の趣旨を踏まえ、今後検討すべき論点として(1)生計費調査に基づく水準の検討(2)生産性向上に資する制度設計(3)下請け適正取引政策(4)経済政策・地域政策・国土政策としての位置づけ――を指摘している。
海外の制度について「主要国中、地域別最賃を採っているわが国は極めて例外的」と記載。最賃を引き上げる際の中小企業支援策として賃金や社会保険料の直接助成も「検討に値する」とした。
現行法が定める最賃決定考慮要素の「支払い能力」に疑問を投げかけ、「想定以上に現状肯定の結果をもたらしかねない」と、引き上げの重しになっているとの認識を示している。
〈写真〉最賃議連は「全国一元化」へ長期の計画が必要と強調した(5月22日、国会)
□最低賃金「早期に1000円」骨太方針へ 地方に照準
日経新聞 2019/5/23 2:00
〔写真〕経済財政諮問会議であいさつする安倍首相(14日、首相官邸)
政府・与党は最低賃金を早期に全国平均で1000円に引き上げる目標を掲げる。都市部に比べ低位にとどまる地方の所得水準を引き上げ、「アベノミクス」の果実を全国に波及させる狙いがある。とりわけ最低賃金の水準が低い東北地方や沖縄県は夏の参院選で激戦が予想されており、選挙にらみの色彩も帯びる。
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自民党の最低賃金一元化推進議員連盟(会長・衛藤征士郎氏)は22日の会合で最低賃金引き上げに関する提言を近くまとめ、政府に要請する方針を確認した。議連幹事長の山本幸三氏は「最低賃金の全国一元化は地方創生のカギだ」と述べた。
公明党の石田祝稔政調会長は22日、首相官邸で菅義偉官房長官と会い、政府が6月に決める経済財政運営の基本方針(骨太の方針)に2020年代前半に最低賃金を1000円に引き上げる目標を盛り込むよう求めた。
政府は早期に1000円に引き上げる目標を骨太の方針に明記し、これまで3%にとどまってきた最低賃金上げのペースの加速を促す。最低賃金の目安は、厚生労働省が設置する学識者と労使の代表による「中央最低賃金審議会」で夏ごろ決める。骨太方針で方向性を示し、議論を先導する。
最低賃金は都道府県ごとに物価など経済状況を反映するため、地域によって水準が異なる。最も高い東京都の985円と最も低い鹿児島の761円では224円の開きが生じている。
政府・与党は地方の所得水準の底上げを重視する。安倍晋三首相は12年にアベノミクスを打ち出し「全国、津々浦々に浸透させ、景気回復の実感をとどける」と約束してきた。しかし、地方では景気回復の実感が乏しいとの声がなお多い。今年10月には消費税の引き上げが待ち受ける。
最低賃金引き上げを主導したのは菅氏だ。14日の経済財政諮問会議では民間議員が5%の引き上げに言及すると「最低賃金の引き上げは極めて大事だ」と賛意を示した。「人口・消費は約3割が東京圏にあるが、約7割ある地方で所得を上げて消費を拡大することが大事だ」と説いた。
菅氏は最低賃金の引き上げはパートの賃上げに高い効果を発揮するとみる。政府推計によると、12年に発足した安倍政権で最低賃金を125円上げたことにより、パートの平均賃金は77円増えた。消費の拡大を誘発していると分析する。
経済産業省などには最低賃金の引き上げで中小企業の経営環境が悪化するとの慎重論もあった。
諮問会議の事務局である内閣府は14日の諮問会議の前に、5%といった具体的な引き上げ幅を民間議員の提言案から外した。一方で「より早期に1000円になることを目指すべきだ」との文言を残し、引き上げペースの加速をにじませた。
地方への目配りは、夏の参院選を意識しているからだ。自民党は13年参院選の1人区で29勝2敗だったが、野党が候補者を一本化した前回の16年参院選は21勝11敗となった。東北5県や甲信越3県のほか三重、大分、沖縄で敗れた。自民党は昨年末、この11県を最優先で人やお金を割り振る「激戦区」に指定した。
最低賃金が低い地域は自民が敗北した地域とも重なる。青森、岩手、大分、沖縄は762円と、最も低い鹿児島に次いで低位にとどまる。山形も763円だ。地域経済や雇用問題への有権者の関心は高く、政府が水準を設定しやすい最低賃金に与党の関心が集まる。