「感情労働と健康権」九州セミナー課題別セミナー (5/18〜19)

 全国センター通信No.240 (通巻250号) 2019年6月1日

「人権・女性・非正規労働」の視点から深める

九州セミナー課題別セミナー・「感情労働と健康権」
 5月18〜19日に開催された九州セミナーの第5回課題別セミナーは、「感情労働と健康権」をテーマに北九州市で開催されました。開会あいさつとして、田村昭彦代表世話人は「感情労働に従事している労働者の増加に対して、日本における感情労働の理解は不十分で、組織的対応が遅れている」と指摘しました。今回は、韓国における感情労働の取り組みのリーダー的存在であるグリーン病院・労働環境健康研究所のイム・サンヒョク医師など韓国から4人を招待しお話を聞くことになりました。
韓国で感情労働が問題になる理由
 イム医師は「感情労働の実態と課題」をテーマに講演しました。イム医師は韓国で感情労働が問題になる理由の第lに「企業の経営戦略が消費者の行き過ぎた権利意識を誘発したこと」をあげました。また、感情労働者の多くが女性や非正規労働者であり、保護されない労働が強いられていることが大きな要因としました。労働環境健康研究所では2010年から継続的に感情労働に関する調査を実施。2013年にはナッツリターン事件に象徴される労働者が企業経営者に暴行、暴言を受ける事件が社会問題化していきました。
 韓国の産業構造も製造業から感情労働の多いサービス業に大きく変化し、顧客対面労働者は推計700万人と言われています。
感情労働者と消費者の望むもの
 感情労働をめぐって、労働者とサービスをうける消費者からの調査により、双方の要望が共通していることがわかりました。それは商品の正確な情報提供であり、クレーム処理の専門的体系でした。消費者も決して安っぽい過剰なサービスを望んでいるわけではありませんでした。正確な情報提供をできるよう教育を受けた労働者によるサービスが望まれていたのです。また、労働者にとって、教育や必要な人員確保、労働条件の改善を通じて、組織(企業)に大切されていることを理解することが、消費者への満足なサービス提供につながることが、明確になってきたのです。
 10年を超える取り組みのなかで、それまで「お客様は神様」といいなりになってきたことに対して、悪質な場合は告訴を含む毅然とした態度をとる企業も生まれてきています。
ソウル市の感情労働センターの取り組み
〔写真〕イ・ジョンフン所長(右)と通訳の大塚大輔さん
 2日目は、ソウル市感情労働センターのイ・ジョンフン所長のから講演がありました。感情労働者は産業や業種で区分することが難しく、「業務時間において顧客・乗客、学生、患者など職場の同僚以外の人々と直接関わる時間が1日にどれだけ占めるか」「業務時間において、感情的な顧客や患者をなだめる時間が1日にどれだけを占めるか」の2つの質問に対して、勤務時間の1/4〜1/2に対応した労働者を感情労働従事者とし、ソウル地域の労働者510万人のうち260万人が該当することがわかりました。感情労働者と消費者はかなりオーバーラップしているということです。感情労働センターでは、研究、広報、相談、教育を柱に活動を進めているとのことでした。
 ソウル市では、2016年に「感情労働従事者の権利保護などに関する条例」を制定されました。それは、被害発生後の事後管理よりも予防を重視し、企業内の取り組みとともに「感情労働保護のためのソウル市民が実践する約束」も示されています。
 ソウルの運動が全国にも波及し、昨年12月に制定された「産業安全保健法」にも、感情労働保護に関する内容が位置づけられました。
 学習会では、感情労働全国ネットワークのイ・ソンジョン執行委員長や日本の医療・介護・公務・生協の職場の実態、過労死問題などの報告もされました。「感情労働を考えるキーワードは、人権・女性・非正規労働」と田村代表世話人は閉会あいさつでまとめの発言を行ないました。
 日本での感情労働の課題を考える大きな契機となる取り組みとなりました。
             (全国センター岡村やよい)

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