これ以上、わたし頑張れません
NHK news up 2019年6月24日 19時09分
「これ以上、わたし頑張れませんーー」
ことばにつまりながらそう話したのは、就職氷河期に大学を卒業して以来、「非正規公務員」として働き続ける女性です。
「突然、給与が減らされる」「この先、働き続けられるか分からない」「抜け出したいけど抜け出せない」
取材班に寄せられた非正規公務員の声です。(「非正規公務員」取材班・ネットワーク報道部記者 國仲真一郎 水戸放送局記者 齋藤怜)
非正規の「学校司書」として
声を寄せたのは非正規公務員として働く30代の女性。
ある自治体で「学校司書」という仕事についています。本の貸し出しや返却、児童への読み聞かせ授業、新たに購入する本の選定など、小学校の図書室の業務を担っています。
見せてくれたのが15年近くつけ続けているという「読書ノート」。年間約500冊の児童書を読んで記録してきました。ノートには本の内容だけでなく、年齢や性格などに合わせて、どの本をどのような子どもに勧めればいいか、読み聞かせに向くかどうかなど、事細かに記してあります。
勤務時間は午前8時半から午後2時半までと決められています。そして勤務時間中はほとんどの時間を子どもたちへの読み聞かせの授業にあてます。このため授業の準備は家に帰ってから行っているといいます。
「大変ですけれど、子どもたちに本と向き合ってほしいと思いながらやっています。自分が選んであげた本を子どもが真剣な表情で読んでいるのを見るとやりがいを感じます」
就職氷河期世代 仕事に就けた達成感
大学を卒業したのはいまから約15年前。就職氷河期の終わりごろでした。「どこへいってもうまくいきませんでした」と振り返るように、就職先は見つからず、実家に戻ることになりました。
「その後1年間はほとんどニートのような生活でした。たまに街を歩いても『ここにいるみんな働いてるのに、自分は』と思うばかり。大学まで出してもらったのに何をしているんだろうと、申し訳なく、情けない毎日でした」
そんな中で見つけたのが「学校司書」の仕事でした。一念発起して猛勉強を始め、司書の資格を10か月ほどで取得し、なんとか就職することができました。
臨時職員としての採用で1か月の給与は約16万円。ボーナスを合わせて年収は230万円ほどでした。決して楽な生活ではありませんでしたが、ようやく仕事に就けたという達成感と、日々の業務にやりがいを感じながら、図書室での仕事を続けてきたといいます。
ある日突然 給与が半分に
ところが、働き始めてから10年ほどたったある日、思ってもみなかったことが起きたといいます。
「給与がそれまでの半分に減らされたんです。有給休暇もボーナスもなくなりました。自治体からは『事業が変わったため』との説明を受けましたが、仕事の内容は何も変わることなくただ一方的に、待遇を下げられただけでした」
「仕事を続けてきて、やっと『ちゃんとできてるかも』と思い始めたばかりのことだったので、『今まで10年間頑張ってきたことは何だったんだろう』という思いでした」
年収は110万円余りと以前の半分に。1か月当たりでは10万円を切ることもあるといいます。昇給はなく、この金額から年金や交通費の差額(実額の半分ほどしか支給されない)などを支払わなければならないといいます。
しかも、学校の夏休みにあたる8月は契約が切れることになっているため、給与はゼロになります。同じ自治体で「学校司書」として働いていたメンバーの半数以上が辞めたといいます。
「非正規化」の波の中で
女性は休みの日などを使って、司書の正規職員としての仕事を探し続けています。地元だけではなく、遠く離れた場所でも受験を繰り返していますが、採用には至っていません。自治体の財政難などを背景に、司書の正規職員は減り続けているのです。
文部科学省の「社会教育調査」によると、全国の図書館(企業やNPOが運営する「指定管理」を除く)で働く非常勤の司書は、平成2年度には513人、司書全体の8%にすぎませんでした。
しかし、平成27年度には9593人と司書全体の63%に。
非正規化が急速に進んでいる職種の1つなのです。
自分の働きを正当に評価してほしいだけ
契約が切れる8月になると精神的に不安定になり、親とケンカをしたり、過呼吸になったりするといいます。
突然、街中で泣き出してしまったこともあるといいます。
就職氷河期の中、非正規公務員として就職。
そしていま、公務員の非正規化がさらに急速に進む中、そこから抜け出そうにも抜け出せない。
「いやなら辞めろということなのでしょう。非正規公務員は都合のいい捨て駒なんだと日々実感しています。いつ切られるかも分からない、自分がどうしようもないところで、自分のことが決められてしまう。
自分の働きを正当に評価してほしいだけなのに、どうしてこんな不安や恐怖を感じ続けないといけないのでしょうか。一生懸命、頑張って仕事をしてきました。これ以上、わたし、頑張れません」
きっかけは“就職氷河期”
就職氷河期 求人募集票の前に集まる学生(1995年)
「就職氷河期で非正規公務員になった」という声は、ほかにも寄せられています。
別の自治体で働く40代の女性もその1人です。
電話で話を聞くことにしました。女性が就職活動を行っていた1990年代後半は「就職氷河期」のまっただ中。地元の短大を卒業後は事務の仕事に就きたいと希望し、金融機関や地元の中小企業などおよそ20社を受験したといいます。しかし、氷河期の厳しさに直面しました。
「資料請求をしても、その年は新卒採用を見送るという会社もありました。面接にまでたどりついても、なかなか内定をもらえませんでした」
“非正規”から抜け出せない
唯一内定をもらった生命保険会社で正社員として働き始めましたが、職場環境が合わず1年余りで退社。
その後、地元の自治体がアルバイトを募集していることを知り応募しました。当初は書類のコピーやファイリングなどの仕事を2年間担当。その後、公募に合格して「非正規公務員」となりました。
「これまでよりは安定した生活ができる」
しかし、その期待は長くは続きませんでした。非正規公務員として3年働いたあと、契約の更新はかなわず、再び同じ自治体のアルバイトとして働くことになったのです。
女性はその後、公益財団法人に転職し非常勤職員として6年働きましたが、再び自治体の非常勤公務員に戻り、いま10年目だということです。
同じ仕事 同じ責任、違う待遇
女性は最近、担当する仕事が正規の職員と差がなくなってきたと感じています。自治体間の“橋渡し”業務に加え、業者との契約に携わるなど、責任の重い業務も任されるようになったといいます。
「それでも、正規職員に与えられるボーナスや住宅手当はありません。同じような仕事をして、同じような責任を担っているのに」
この「非正規公務員」の問題。
これまでも多くの声をお寄せいただき、ありがとうございます。
私たちはこれからも取材を続けていきたいと考えています。読んでいただいた皆様からの情報提供をお待ちしています。
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