育休後の男性社員に不利益 相次ぐ企業批判、経営に悪影響も
産経BIZ 2019.7.9 05:00
育児休業を取った男性社員が、復帰後に会社から不利益な扱いを受けたと訴えるケースが大手企業で相次いだ。インターネット上でも反響を呼び、会社への批判が集中。専門家は正当性を訴える企業に対し、「批判に耳を傾けないとして人材が集まらず、経営に悪影響を及ぼす可能性がある」と指摘する。
カネカ元社員の妻が書き込んだツイッターの投稿
◆子会社に出向命令
「(夫は)育休明け2日で関西転勤内示。結局昨日で退職し、産後4カ月で家族4人を支えます」。6月1日、化学メーカーのカネカ元社員の妻がツイッターに投稿すると、リツイート(転載)は4万件を超えた。賛否両論あり、「悪質な嫌がらせだ」と企業を非難する声も大きかった。
カネカは同月6日、「対応は適切」と見解を発表。異動は育休前に決まっていて、内示前に育休に入ったため伝えられなかったとして「見せしめではない」と強調。着任日を延期したいとの元社員の希望は「受け入れるとけじめなく着任が遅れる」と拒否していた。
アシックスに勤める男性(38)は2016年、約1年間の育休後、子会社への出向を命じられた。待っていたのは倉庫での段ボール箱の運搬。以前の仕事はマーケティングや人事だった。「左遷された」と感じた。
弁護士に相談し、親会社には戻れたが、上司からの業務指示が半年以上ないなど「辞めろという圧力を感じた」という。6月末に会社を提訴。会社は「訴状が届いていないので、コメントは差し控える」とした。
労組「首都圏青年ユニオン」によると、カネカの問題以降、「育休を取ったら配置転換された」「育休を取った年の人事評価が著しく下がった」といった相談が増えた。
NPO法人「ファザーリング・ジャパン」代表理事の安藤哲也さんは「育休を取りたい男性は増え、一方で取りづらい現状への不満が噴出した」とみている。
◆就活生の重要指標
18年度の男性の育休取得率はわずか約6%で、20年度に13%という国の目標達成は簡単ではない。安藤さんは「転勤を『踏み絵』に会社への忠誠心を示す『昭和』の働き方は通用しなくなりつつある。育休はマイナスという意識も変えなければ、浸透しない」と話す。
危機管理に詳しい広報コンサルタントの石川慶子さんによると、この問題への対応を企業が誤ると損失は大きい。「求められているのは違法性の有無の主張ではなく、批判を受け止める姿勢だ」
就職活動を控えた都内の私立大2年の男子学生(19)は「社員の声を真摯(しんし)に聞けない会社に、就職したいと思えない」と感想を述べた。石川さんも「育休の取りやすさは企業価値を左右する重要な指標になり得る。人材が集まらなければ、長期的な成長戦略に支障を来す可能性を自覚すべきだ」と話した。
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