京の課題 2019参院選 働き方改革 業務見直し、収益向上 (7/9)

京の課題 2019参院選 働き方改革 業務見直し、収益向上

 
朝日新聞 朝刊 京都 2019年7月9日
 
 「社長、お子さんの入学式がそろそろですね」
 山科区勧修寺にある佐々木化学薬品。総務課の副責任者、加藤和子さん(52)は、佐々木智一社長(47)をはじめ同僚たちに休日取得を勧める声掛けを欠かさない。
 社内で初めて育児休暇を利用した社員でもある加藤さんは「休みやすくなるように背中を押す。家族にも喜んでもらえる」と語る。
 同社は佐々木さんの祖父が1946年に創業。社員は87人を数え、売上高は約45億円だ。
 月間の残業は社員全員で計約120時間。忙しい部署の数人で占め、多くは残業がない。1カ月の残業が20時間に達した社員がいれば、業務見直しや増員の検討に入る。昨年6月に国会で成立した働き方改革関連法で、今年度から義務化された年次有給休暇の最低5日以上の消化は、5年ほど前から達成済みだ。
 
 2006年に社長に就いた佐々木さんは「働き方改革はビジネスモデル改革だ」と話す。収益をあげるために長時間働くのをやめようと考えてきた。同社は07年、研究開発部を作って人材を投入。ソニーや凸版印刷など大企業OBを顧問に招き、開発やマーケティングの教えを請うた。開発・製造事業の利益がのび、商社事業と半々ぐらいになった。
 今後、請求書のやり取りをメールに変えたりして、仕事量を減らしたいという。「ルーチンワークをゼロにして、クリエーティブな仕事を増やす」のが目標だ。
 月に1度、職場環境を改善するための社内検討会を開き、加藤さんら社員4人が話し合う。16年にはこの議論を通して、家族の看護や介護のため30分単位で取得できる特別休暇(有給)を設けた。
 佐々木さんは言う。「働き方改革はコストがかかるので、利益をあげなければいけない。ビジネスモデルを変えるのは経営者の責任。中小企業にもできる」
 総務や営業など各部署が一つのフロアで仕事をするレイアウトの変更を考えている。残業しているのに申告しなかったり、仕事を持ち帰ったりしていないか。さらにコミュニケーションを図りたい。
 
 働き方改革関連法には、繁忙期の残業時間を「月100時間未満」とした罰則付きの上限規制や、年収が高い一部の専門職について労働時間規制の対象から外す高度プロフェッショナル制、勤務間のインターバル制の努力義務などが盛り込まれた。今年4月から順次施行されている。
 「全国過労死を考える家族の会」代表の寺西笑子さん(70)=伏見区=は、「過労死ライン」とされる月残業80時間を超える「月100時間未満」が認められたことを問題視し、仕事の持ち帰りも懸念している。「評価を上げるために労働時間を過少申告してしまわないか。会社側は労働時間を適正に把握すべきだ。『休め、残業するな』と言うなら、仕事量を減らすことが必要。休める環境をつくらないと、本当の働き方改革ではない」と指摘する。(徳永猛城)
 
労働時間計算し人員増を
 労働問題に詳しい脇田滋・龍谷大名誉教授(労働法)の話 日本の労働者は働き過ぎで、過労死は深刻な問題。人員を適正な規模まで増やし、人間らしく働き暮らすための労働時間に短縮することが必要だ。
 所定労働時間や残業、有給休暇取得の状況をもとに、職場全体で抱える業務量をこなすのにかかる時間を導き出す。一方で、残業ゼロ、有給休暇を完全取得した場合の「人間らしい労働時間」も計算。両者から適正な人員数がわかる。現状の人員との差が、増やすべき人員数だ。
 人間らしい労働時間になることで、健康と自由な生活の時間を確保できる。労働時間の短縮が、仕事の分かち合い、つまり雇用の創出に結びつく。非正社員の解消にもつなげたい。このような施策を採り入れている韓国・ソウル市の事例は参考になるだろう。働き方改革関連法は長時間労働ありきの考え方で成り立っており、問題が多い。すみやかに改正すべきだ。
 
 参院選が21日に投開票されます。「京の課題」では、私たちの暮らしにまつわる問題を考えます。
 
【写真】ビジネスモデル改革を進める佐々木智一社長(左)と、職場環境の改善に取り組む加藤和子さん=山科区の佐々木化学薬品
 

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