「人生の墓場に入ったとずっと思っている」。厚労省の職員や退職者の叫びと改革への動き。厚労省の若手たちが動いた。 (8/26)

「人生の墓場に入ったとずっと思っている」。厚労省の職員や退職者の叫びと改革への動き。厚労省の若手たちが動いた。
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2019/08/26 17:51 瀬谷健介 BuzzFeed News Reporter, Japan

厚生労働省の働き方改革に取り組む若手チームが8月26日、組織の改革をするため、根本匠厚労相に対し、緊急提言をした。

根本厚労相は、提言を受け取ると「多岐にわたる提言を述べてくれ、心から感謝を申し上げます」と返した。

〔写真〕(右から)根本匠厚労相と若手チームの代表で厚労省人事課の久米隼人課長補佐

厚労省は4月、業務改革の取り組みを進めるために若手チームを結成した。

若手チームは20、30代を中心とする38人の職員で構成。省内に18あるすべての人事グループからなるという。

今回の提言の内容は、厚労省の業務・組織のあり方についてのもので、これまで省内の幹部や若手の職員に対してヒアリングや対話、アンケート調査を行うなどして取りまとめた。ヒアリングにあたっては、退職者も対象に入れたという。

「楽をしたい、待遇を良くしたい」ではない

なぜ業務改革を進めたいのか。

提言によれば、日々の業務を減らして楽をしたい、待遇を良くしたいといった動機ではないといい、こう記される。

国民から求められる社会保障や働き方改革を十分に推進できる組織でないならば、一刻も早くこの組織の抱える課題を解消し、個人と組織の持つ能力とパフォーマンスを最大化して、真に日本の社会経済・国民生活の向上に資する、信頼される組織に再生させるべきである。

「厚生労働省改革を進めることは、国民一人一人の人生と生活をより良くするもの」。そうした想いと責任感に基づいて、昼夜なく、この緊急提言の検討を進めてきた。
厚労省の職員たちの労働実態

厚労省は、医療や介護、福祉、年金、労働、子どもなどに関わる行政を所管する。

「働き方改革」の旗振り役でもある一方で、省内の職員は過重な労働が強いられている。

自民党行政改革推進本部によれば、厚労省の忙しさは他省に比べて随一で、2018年の定員1000人あたりの国会答弁数、所属委員会の出席時間、質問主意書答弁数、審議会などの開催回数、国が被告となっている訴訟件数の全てで1番多かったという。

省内では労働時間の長さなどから、「強制労働省」と自嘲気味に呼ぶ声もある。

こうしたことが影響し、若手チームによるアンケート調査では、約50%の職員が「やりがいを感じる」とする一方で、65%の職員が自らの業務量を「非常に多い」「多い」と回答。

「職員を大事にする職場である」と答えたのは8%にすぎず、「職員を大事にしない職場である」と回答したのは40%以上となった。

さらに、業務量負担の要員として、3分の2の職員が「厚労省全体の人員が不足している」と答え、半数の職員が「仕事や心身の健康に悪影響を与える職場である」、20代後半の職員の約半数が「辞めたいと思うことがある」とした。

職員や退職者からあがった悲痛な叫び

さらに、職員や退職者へのヒアリングで、悲痛な声があがったという。

「厚生労働省に入省して、生きながら人生の墓場に入ったとずっと思っている」(大臣官房、係長級)
「毎日いつ辞めようかと考えている。毎日終電を超えていた日は、毎日死にたいと思った。」(保険局、係長級)
「仕事自体は興味深いものが多いと思いますが、このような時間外・深夜労働が当たり前の職場環境では、なかなか、一生この仕事で頑張ろうと思うことはできないと思います」(労働基準局、係員)
「家族を犠牲にすれば、仕事はできる」(社会・援護局、課長補佐級)
「今後、家族の中での役割や責任が増えていく中で、帰宅時間が予測できない、 そもそも毎日の帰宅時間が遅い、業務量をコントロールできない、将来の多忙度が予測できないという働き方は、体力や精神的にも継続することはできないと判断した」(退職者)
「子供がいる女性職員が時短職員なのに毎日残業をしていたり、深夜にテレワーク等をして苦労している姿を見て、自分は同じように働けないと思った」(退職者)

その中で、元職員の多くが「厚生労働省の仕事は非常に重要であり、やりがいもあると思うが、自分の健康や家族をこれ以上犠牲にすることはできず、退職を決意した」との趣旨の発言をしたという。

3つの提言とは

若手チームは、人手不足や組織的・構造的課題によって個人のモチベーションや組織のパフォーマンスが下がるだけでなく、劣悪な労働環境によって不祥事や離職者が生まれるといった「負のスパイラル」に陥っているとし、こう指摘する。

「一番の不利益を受けるのは、何よりも厚生労働行政を必要としている、我々が最も価値を届けたいと思っている国民なのである」

「このような現状と決別し、厚生労働省こそが、職員のを踏まえ、健康と家族のことを多様な生き方やキャリア十分に考えて、徹底した時間・業務管理を行い、どのような働き方であっても実績に応じて評価され、処遇され、自分が目指すキャリアを追求できるような組織を目指さなければならない」

こうした調査を踏まえ、若手チームは、主に以下の3つの提言をした。

(1)業務の集約化・自動化・外部委託のほか、国会業務の効率化、ICT技術の活用による生産性の向上

(2)人事制度の改革

(3)「暑い・狭い・暗い・汚い」オフィス環境の改善

91ページからなる提言書を受け取った根本厚労相は、若手チームの職員らに対してこう述べた。

「アンケートなどで集まった職員の声を重く受け止めたい。対応するよう指示したい」

「厚生労働行政は国民に密着している。前向きに頑張ってもらいたいと思います」

中央省庁全体で事態は深刻

Bee32 / Getty Images イメージ写真

2016年には安倍晋三首相が、内閣官房に「働き方改革実現推進室」を設置。

厚労省だけでなく、中央省庁全体で職員たちが劣悪な労働環境下で働いているため、対策を進めようとしているが、大きな効果を見せていない。

霞が関国家公務員労働組合共闘会議によるアンケート結果によれば、2017年に33時間まで減った月平均残業時間が18年には36.9時間に再び増加し、9.8%が過労死ラインで働くなど、事態は深刻だ。

若手チームの代表で、厚生労働省人事課の久米隼人課長補佐は、BuzzFeed Newsに「組織内ではもどかしい、情けないと思う状況がある」とし、こう語った。

「なぜ職員たちが厚生労働省に入ったか。それは、困ってたり苦しんでたりする国民の生活をより良くしようと思ったからです。若手たちがこうして取り組んでいるのは、組織を改革することで国民に価値を届けるためです。変えないといけないと思っています」
 

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