7日連続、1日13時間の過酷シフトも。学生ブラックバイトで回す業界の“甘え”
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9/18(水) 8:10配信 BUSINESS INSIDER JAPAN
7日連続、1日13時間の過酷シフトも。学生ブラックバイトで回す業界の“甘え”
アルバイトのシフトが厳しすぎて、学業への支障も出ている。
人手不足倒産の件数が2018年度は過去最高を更新し、帝国データバンクの調査では、2社に1社が「正社員不足」と答えている。非正規社員では、とくに飲食店で8割が人手不足。こうした現場は、学生アルバイトが過酷な勤務で回している。
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「ブラックなのは分かってるけど、辞められないんですよね」
そう語るのは関東に数十店舗を構えるラーメンチェーン店でアルバイトをしているミズキさん(21、仮名)。都内の私立大に通う3年生で、茶髪のボブに長いまつ毛のイマドキの女子大生だ。ラーメン店でのバイトは高校1年生の時から続けている“ベテラン”で、シフトは基本週6回、平日5時間、土日は12時間くらい入るという。
マネージャー職ということもあり、時給は1300円とそれなりに高いものの、シフトの急な欠員を自ら埋めなければいけないことも多い。「時間の融通が利きづらい立場であるのも確かです」(ミズキさん)。
ラーメン店は、年中無休。従業員はパートやアルバイトを含めて計23人だが、その中で正社員はたったの2人。副店長もアルバイト勤務のフリーターが任されていて、午前11時〜翌朝4時半までの営業時間をランチは主婦、ディナーは学生、ナイトと呼ばれる深夜帯は正社員を中心に回している。
会社全体が慢性的な人材不足で、常に各店舗の店長が足りないため、週に一度様子を見に来るだけの本社の社員が、“名ばかり店長”だったこともある。そのときは春休み中の学生アルバイトが「時間帯責任者」として、開店から締め作業、発注に至るまで店の全てを管理していた。
早朝5時駆けつけのヘルプも学生バイト
店長の代わりを「4時間だけ」と頼まれ、結局、翌朝5時の閉店まで13時間働いたこともある。慣れない締めの作業に、他店舗にLINEで助けを求めたところ、隣の店舗のマネージャーの男性が自店舗の締め作業を終えて、朝5時に駆けつけてくれたという。ちなみにこの男性も、大学4年生のアルバイトだ。
深夜帯に働くと翌日の授業への出席が苦しくなることは分かっていたが「代わりが他にいないことは誰よりもわかっているから、断れなかった」(ミズキさん)。
「とにかく人員不足で。いつも(店舗に貼られている)シフト表にヘルプが出てます。自分で手をあげることもありますし、社員に直接頼まれて急きょ入ることもあるため、(年収が家族の扶養の範囲内に収まる)103万円を超えてしまいそうです」
そう話すのは、全国チェーンのコーヒーショップでアルバイトをする、都内の私立大学3年生のユリさん(21)。店舗で働く27人のうち、社員はわずか2人。ほとんどが学生のアルバイトで回している。ユリさんの勤務実態は時に週7日出勤、実労働46時間。深夜0時まで締め作業の日もある。
「採用募集には23時半クローズと書いてありますが、実際には深夜0時。学生バイトが午前1時まで店舗に残っていたこともあります」(ユリさん)
ブラックバイトの背景にあるものとは
働き方改革の呼び声とは裏腹に、人手不足のサービス業の現場の「労働力」として駆り出される大学生の勤務実態は、過酷だ。
しかも、前出のミズキさんもユリさんの働き方も労働基準法違反の疑いがある。
Business Insider Japanがアルバイトに関して学生たちの声を集めたところ、こうした事例はこの2人だけではなかった。法令違反とまではいかなくとも、バイト料だけで正社員並みの義務やノルマを課されている学生バイトは、全くもって珍しくない。
「夏休みに、自動車教習所に通いながらバイトしようとしたら、予定も聞かずにシフトが何週間先も埋められて。勤務時間も10時から16時を予定していたのが2、3時間延長することもしばしば。でも、店長が怖くて断れなかったんです。全く(教習所には)通うことができませんでした」(九州在住の大学1年生の女性、全国チェーンのCDショップ)
ここ数年、人手不足の現場の安価な労働力として学生アルバイトをアテにする企業の動きは、中京大学国際教養学部教授の大内裕和氏が「ブラックバイト=学生であることを尊重しないアルバイトのこと」と定義し、社会問題化してきた。学生たちのブラックなバイト話を掘り下げていくと必ず出てくるのが、そうした現場での社員たちのあまりの激務ぶりだ。
午前から終電まで働く社員たち
「とにかく社員が激務なんです。24人の店舗で、社員は3人ですが、午前10時から終電まで、週6勤務で働いています」
都内のスペイン風居酒屋で働く、都内の私立大学2年の女性は、社員の過酷な勤務を目の当たりにしてきた。
この学生もランチに自店舗、ディナーにヘルプで他店舗の勤務に入る場合、一度退勤させられて、ヘルプ先の他店舗でまた出勤のタイムカードを押さなければならないという。連続勤務とみなされると、法律では1日6時間以上勤務の場合、休憩時間を取らなければならないが、一旦勤務時間を切るのでそれも必要なくなるという理屈だ。
時給1200円と比較的高い時給と、自宅から近いこと、好きな飲食の仕事ということでなんとか続けてきたが、かなりハードだ。
それでも「現場に出ない(本社の)社員が全店舗の(希望する)シフト状況を見て、現場の勤務シフトを決めている。急に呼ばれたりヘルプに行かされたりしても、本社に言われて直接バイトに指示を出す店長を、責めることはできません。店長はかわいそう」と、現場社員に同情的だ。
前出のユリさんも、ピンポイントでやってくる急の出勤要請に「朝から晩までお店にいる倒れそうな店長に直接お願いされたら断れなくなってしまう。申し訳ないと感じてしまう」。
社員の実態を目の当たりにしすると、何も言えなくなるという。
バイト頼みの飲食店は8割で人手不足
現場社員の長時間労働や過酷な勤務は深刻だ。
帝国データバンクの調査によると、2018 年度の人手不足倒産の件数は 169 件(前年度比 48.2%増)で、調査を開始した 2013 年度以降は右肩上がりで推移し、過去最高を更新した。正社員では2社に1社が、非正規社員でも3社に1社が「人手が不足している」と答えている。
非正規社員の不足感を業種別にみると、最も高い「飲食店」は 8割が「不足している」と回答。
しかし、だからと言って、「安価な労働力」として学生アルバイトに依存していい訳がない。そもそも今回の取材でわかったのは、社員も学生アルバイトも、労働基準法の労働時間を超えて働いているとみられるケースが続出という現実だ。
こうした「犠牲」の上に成り立つサービスが、持続可能なわけがない。
「必要とされている感覚」「学ぶことも多い」
ではなぜ学生たちは「ブラックな働き方だ」と分かっているのに、辞めないのだろう。今はどこも人手不足でバイトの募集はいくらでもある。
前出のコーヒーショップ勤務のユリさんは「必要とされている感覚」だと言う。
「就活の相談にも乗ってもらえるし、人事考課も人材育成もしっかりあって。仕事を任されて昇級するごとに、自分がお店に必要な存在なんだと感じます。結局は自分の居場所となっていき、店舗への愛着が増すのです」
ラーメンチェーン店でバイトするミズキさんも、今のバイトに疑問を持っている様子はない。
「マネージャーという立場にやりがいを感じているので、辞めたいとは思わない。学生ながらマネージャーの責任を負うのはつらいことも多いけど、学ぶことも多い。他の学生より確実に誇りを持って働けていると思っています」(ミズキさん)
生活費や奨学金の返済のために、バイト代が生命線という学生もいる。仮に、学生の「やりがい」や「前向きな姿勢」を引き出せていたとしても、それは社員不足を低コストで補い、学生バイトの「がんばり」に依存していることに変わりはない。それは企業だけでなく、私たちサービスの利用者もまた依存していることになる。
こうした現実の上にかろうじて成り立っている、年中無休や深夜営業、24時間営業のような業態は、いつまで持続できるだろうか。(写真は全てイメージです)
(取材・文、稲葉結衣、齋藤沙倉、三田理紗子、編集・構成、滝川麻衣子)
滝川 麻衣子,三田 理紗子(Risako Mita),齋藤沙倉,稲葉 結衣