医師の過労死裁判、病院の主張にユニオンが抗議 「医師の働き方改革に悪影響を及ぼす」
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弁護士ドットコム 2019年10月17日 16時02分
〔写真〕会見した植山代表(左)と中原さん(弁護士ドットコム撮影、2019年10月17日、東京都)
長崎市の長崎みなとメディカルセンターに勤務していた男性医師(当時33)が2014年12月に亡くなったのは過重労働が原因だとして、遺族が病院を運営する市立病院機構に約4億1000万円の損害賠償などを求めた訴訟。病院側は、約1億6700万円を遺族に支払うよう命じた長崎地裁判決を不服として控訴し、福岡高裁での審理が始まっている。
これに対し、全国医師ユニオンは10月17日、「医師労働において看過できない非常識な主張が数多く見られる」と病院側の控訴理由書に抗議する声明を発表。東京・霞が関の厚労省記者クラブで会見を開いた。
男性の妻は文書で「市民病院の控訴理由書の中に、あたかも自己責任と思わせるような内容があり、悔しさしかありません。本当の意味での医師の働き方改革が進むべきだと思います」とコメントした。
●「厚労省の検討会報告書を悪用している」
男性は2014年4月から、長崎みなとメディカルセンターで心臓血管内科医として勤務。12月に自宅で心肺停止状態で発見され、亡くなった。発症前1カ月の時間外労働は159時間で、亡くなるまでの半年間の月平均残業時間は約177時間だった。7月末から10月中旬には84日連続で働いていた。
全国医師ユニオンの植山直人代表によると、病院側は控訴理由書で「時間外労働時間数の把握は申告時間によるべきである」、「当直時間帯で労働をしていない時間については、疲労を蓄積することにはならないから、労働時間から控除することが適切」、「他の年や同僚医師と比較して、特に過重な状態となっていた訳ではない」などと主張したという。
また、厚生労働省の「医師の働き方改革における検討会」が2019年3月に取りまとめた報告書を引用し「報告書においても、『技能向上が必要な研修医らには地域医療と同様の水準を設定する』とされ、例外的な扱いとすることを許容している」と述べた部分もあったという。
声明はこれに対し、「厚労省の検討会報告書を悪用している。控訴理由書に引用されている検討会での発言や資料は、何ら安全配慮義務違反を正当化するものではない。今後の働き方改革に悪影響を及ぼすことが危惧され、病院側は自らの立場を改めることを求める」などと危機感を表明した。
また、抗議声明とは別に、田上富久長崎市長に長崎みなとメディカルセンターの適切な労務管理を市側が働きかけるよう求める要請文と厚生労働大臣に対して医師の働き方で検討されている健康確保措置などに関する要請文を提出した。
小児科医だった夫を過労自殺で亡くした「東京過労死を考える家族の会」の中原のり子さんは「毎年被災者が増え続けていることに危機感を抱いています。医師の働き方が異常であることを訴え続けたい」と話した。
医師の健康確保措置等に関する要請
厚生労働大臣
加藤勝信 殿
2019年10月17日
全国医師ユニオン代表 植山直人
医師の働き方改革においては、医師のみに過労死ラインの2倍の長時間労働を認める例外が設けられたが、私たちはこれ自体に反対するものである。
⼀方、⻑崎市立病院(現、長崎みなとメディカルセンター)で起きた過労死裁判が福岡高裁で⾏われているが、病院側は厚労省も医師に関しては1860時間の例外を認めているとし、自らの責任を逃れる主張を行っている。病院側のこのような主張は、地域のために危険な⻑時間労働を担う医師やその家族と病院との信頼関係を著しく損なうものであり、看過できない。
医師も普通の人間であり、医師が過重労働に適応できる身体的特性があるために長時間労働の例外が認められたものではない。年1860時間という時間外労働の例外も現状の医師不足のためにやむなく決められたものであり、医学的な安全性から出されたものではない。また、例外の条件とされた健康確保措置もその効果に関しては医学的な根拠はなく、今後も医師の過労死が起き続けることは否定できない。
これらの点にかんがみ、私たちは以下の4点を求めるものである。
1、特例のB水準病院においては、過労死と関連のあるリスクの高い疾患を有する医師及び既往のある医師には、過労死ラインを超える働き方をさせないこと。
2、特例のB水準病院においては、比較的軽度の疾患を持つ医師に関しては特例水準で働くことは可としても、もし重度の労災や過労死が起きた場合、病院は本人の疾患に原因があったとせずにそのような医師に過重労働を⾏わせたことに原因があるとの立場に立つこと。
また、そのことを病院としてあらかじめ宣言することを厚労省として求めること。
3、C水準に関しては高度の技能の習得のための例外であるため、技能習得とは関係のないアルバイトを行うことは例外を認める趣旨を逸脱するものである。また、無給医に象徴されるような研修や技能修得を理由とした差別的雇用を行わず適切な賃金が払われていればアルバイトの必要はない。従って、C水準に該当する医師には適切な賃金を支払い、アルバイトを禁止すること。
4、時間外労働の上限に1860時間の例外が認められるB・C水準の医師に関しては、主たる勤務先が適切な健康確保措置をとるために他の医療機関での労働も含む全ての労働時間を合算して管理することを明記し、徹底すること。