パワハラ助長の恐れ大! 厚労省発表「実例集」があまりにもズレている (11/10)

パワハラ助長の恐れ大! 厚労省発表「実例集」があまりにもズレている
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191110-00591727-shincho-soci
2019/11/10(日) 5:57配信デイリー新潮

パワハラ助長の恐れ大! 厚労省発表「実例集」があまりにもズレている

厚労省
パワハラと聞き、あなたは何を思い浮かべるだろう。サラリーマンのみならず、アスリートの世界でも告発が相次ぐが、有り様は千差万別である。そんな折、厚労省が初の「実例集」を出して波紋が広がっている。民の暮らしを知らぬお上が基準を作れば、聞こえてくるのは溜め息ばかりで……。

 働き方改革の一環で、来年春に施行されるのが改正労働施策総合推進法、いわゆる「パワハラ防止法」だ。企業に対し防止策を講ずることを求め、違反すれば企業名が公表されるという。

 これを受け、10月21日に厚労省は労働政策審議会の分科会で、パワハラ防止の指針の素案を発表した。国として初めて具体例を掲げたが、方々から異論が続出。中でも発表当日に緊急声明を出したのが、「労働トラブルホットライン」を運営する弁護士らの全国組織「日本労働弁護団」だ。

 厚労省がまとめた案は、〈かえってパワハラを助長しかねないものであり、「使用者の弁解カタログ」となるような指針などない方がましである〉として、抜本的な修正を強く求めているが、いったい何故なのか。

「指針ではパワハラについて、具体的に六つの行為の類型が示されましたが、該当例のみならず、当てはまらない例を出したことが大いに問題だと思います」

 と懸念を口にするのは、日本労働弁護団で幹事長を務める棗(なつめ)一郎弁護士だ。

「例えば、〈暴行・傷害〉という類型の欄では、〈誤ってぶつかる、物をぶつけてしまう等により怪我をさせること〉は該当しないとある。こう書かれたら、故意の暴行をした側に言い逃れの余地を与えてしまいます」

大きなお世話
さらに、〈暴言(精神的な攻撃)〉という類型にも疑問があると棗氏は続ける。

「該当しない例として、〈遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動・行動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して強く注意をすること〉を挙げますが、注意の定義があまりに不明確で、加害者から『強い注意の一環だった』と言い逃れされる恐れがあります」

 ちなみに、件の素案は、〈業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと〉はパワハラになるとしているが、違いがよく分からない。

 棗氏はこうも言う。

「該当しない例を安易に明示されると、被害者の代理人として、裁判や交渉を行うことが非常にやりにくくなる。今後の審議会では、この抜け穴だらけの素案がベースになり、議論をしても全てが修正される可能性は低いと思います」

 片や、当事者の厚労省雇用機会均等課はといえば、

「緊急声明など、様々な意見が出たことは承知しておりますが、今回の素案はあくまでもたたき台です。具体例が一人歩きしないよう、気をつけていきます」

 と殊勝な答えに終始する。

「お上がパワハラを規定するなんて、私は大きなお世話だと思います」

 と驚き呆れるのは、評論家の大宅映子氏だ。

「社員をどう教育するかは、企業ごとに考えて試行錯誤していくもの。日本人って、ルールが決められれば守ろうと必死になりますから、厚労省から指針なんて出されたら萎縮するだけ。職場が余計にピリピリすれば、本来は厳しいことを誰かが言わなきゃいけないのに、育つ人間も育たなくなる。そうなれば会社はもとより日本社会も成長しなくなるでしょう。そもそも、何でもかんでもハラスメントと言ってしまう最近の風潮はどうかと思います。もっと寛容な方が、便利で生きやすい世の中になるのでは」

 なんだか先が思いやられるばかりなのである。

「週刊新潮」2019年11月7日号 掲載
 

この記事を書いた人