「女性活躍推進」なのに、配偶者の年収「5つの壁」が立ちはだかる矛盾 いまだ専業主婦を優遇 (11/21)

「女性活躍推進」なのに、配偶者の年収「5つの壁」が立ちはだかる矛盾 いまだ専業主婦を優遇
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税理士ドットコム 2019/11/21(木) 9:02配信

写真はイメージ(makaron* / PIXTA)

年末になると「103万円を超えないように調整しないといけない」とか「130万円を超えそうなので休む」などという言葉が至る所で聞かれるようになります。この数字は一体何なのでしょうか。

これら所得の額には何種類もの「壁」があって、非常にわかりにくいものになっています。また、この「壁」があるため、わざわざ103万円以内で働く人がいるなど、女性の社会進出を阻害しているとも言われています。

なぜこのような「壁」があるのか、また、「壁」が女性の社会進出を阻害しているなら、どのようにしていくべきなのかについて今回は考察したいと思います。(ライター・メタルスライム)

●103万円、106万円、130万円、150万円、201万円の壁

これらの壁は、大きく分けて、「税金による壁」と「社会保険による壁」の2つがあります。

【税金による壁】

(1)103万円の壁
所得税には、「基礎控除」があり、誰でも38万円が控除されます。給与所得者の場合、さらに「給与所得控除」があり65万円が控除されます。つまり、38万円+65万円=103万円以内であれば課税所得は発生せず、税金を払う必要はありません。また、生計を一にする配偶者がいる場合、配偶者の所得が103万円以内であれば、納税者の年収により38万円から13万円の「配偶者控除」が受けられます。この2つの理由から「103万円以内で働きたい」との動機が生まれます。これが「103万円の壁」です。

(2)150万円の壁
103万円を超えると所得税が発生し、「配偶者控除」も受けられなくなりますが、それを緩和する措置として「配偶者特別控除」があります。配偶者特別控除は、給与所得者の場合、103万円以上150万円以下であれば、配偶者控除と同額の38万円から13万円の控除が受けられます。そのことから、「150万円以内で働きたい」という動機が生まれます。これが「150万円の壁」です。

(3)201万円の壁
「配偶者特別控除」は、150万円以下であれば配偶者控除と同額の控除が受けられますが、それを超えても段階的に引き下げられながら控除を受けることができます。その限界となるのが201万円です。201万円を超えると配偶者特別控除が受けられなくなるため「201万円以内で働きたい」という動機が生まれます。これが「201万円の壁」です。

【社会保険による壁】

(1)106万円の壁
?勤務先の保険加入者が501人以上、?月額賃金が88,000円以上、?所定労働時間が週20時間以上、?1年以上の勤務の見込みがある、?学生でない、という条件を満たす場合、社会保険(健康保険、厚生年金)に加入しなければなりません。つまり、一定の規模以上の会社で働いている場合、88,000円×12月=1,056,000円以上の収入があると社会保険料(健康保険、厚生年金)の負担が発生します。これを避けたいということで「106万円以内で働きたい」という動機が生まれます。これが「106万円の壁」です。

(2)130万円の壁
厚生年金や健康保険の被保険者に扶養されている人は、年金や健康保険の保険料を納付する必要はありません。この扶養に入れる限度額が130万円です。年収が130万円を超えると自分で社会保険に加入しなければならないため、「130万円未満で働きたい」という動機が生まれます。これが「130万円の壁」です。

●なぜこのような壁があるのか?

なぜ、たくさんの種類の壁が存在し、その範囲に収まるよう仕事をセーブしなければならないのでしょうか。結論から言うと、扶養に関して、税の基準と社会保険の基準が違うことと、優遇を受けるためには、所得は低いものであるべきとの価値観があるからです。

日本の行政は長らく、「夫は外で働き、妻は専業主婦として家庭を守り、子どもは2人」というのをモデルケースとして政策を立案してきました。そのため、妻の所得が低い場合に限り優遇するという制度設計になっています。

しかし、内閣府の男女共同参画局の資料によれば、平成4年から、専業主婦世帯を共働き世帯が上回るようになり、平成29年度現在では、専業主婦世帯が641万世帯であるのに対し、共働き世帯は1188万世帯と全体の約65%は共働きになっています。

このように社会構造が変化してきているにも関わらず、税や社会保険の基準は、未だに夫は外で働き、女性は働いたとしてもパート程度と考えているところに問題があります。特に「配偶者控除」や「配偶者特別控除」は時代錯誤的な制度と言えます。

配偶者控除というのは、簡単に言うと「専業主婦をしていると夫の税金が優遇されますよ」という制度です。つまり、専業主婦または働くにしてもパート程度がおすすめですと国が推奨してきたわけです。

なぜ国が専業主婦を推奨してきたかというと、諸説ありますが、「家は女が守るもの」という古い概念を維持したかったのと、女性が社会に進出するようになると、優秀な女性が高収入を得たり、出世したりするようになり、男性の地位が低くなることを恐れたからです。国としては男性優位の社会を築きたかったのでしょう。

他方、女性は女性で、税の優遇や社会保険に無料で加入できることをいいことに、「専業主婦」という身分を正当化してきたという側面があります。また、働く場合であっても、「配偶者控除や社会保険の負担のない範囲で」というのが、簡単な業務しかできないという言い訳になっていたのも事実です。女性にとっても都合のよい制度だったわけです。

ところが、日本の経済成長にも陰りが見えてきて、企業も内部留保ばかりして、給与を引き上げないために、夫の収入が上がらず、妻も専業主婦をしている余裕がなくなってきました。そのため、共働き世帯が増えてきているというのが現状です。

また、国も働き手が少なくなり男性優位の社会などと悠長なことを言っている場合ではなくなり、政府はあわてて「女性が輝く社会」とか「1億総活躍社会」などと言うようになったのです。

●「103万円の壁、150万円の壁、210万円の壁」の問題点

配偶者控除は、端的に言って専業主婦を優遇する制度です。既に共働き世帯の方が多いのに、共働き世帯は配偶者控除の恩恵が受けられないという不平等なものになっています。また、配偶者控除の制度があるために、わざわざ103万円以内でしか働かないというのは女性の社会進出を妨げていると言えます。

配偶者控除は、元々お金持ち優遇税制と批判されてきました。というのは、夫の収入が少ない人ほど共働きしているので、配偶者控除を受けられません。他方、夫がお金持ちの場合、妻は優雅に専業主婦をしていて配偶者控除が受けられます。しかも、高所得者ほど所得税率が高いので、配偶者控除の恩恵も大きいものとなっています。

これらの批判を受け、2018年の改正によって、年収1220万円以上の人は配偶者控除を受けられなくなりました。ただ、1220万円未満であれば配偶者控除を受けられるので、依然として高額所得者を優遇している制度と言えます。

●「106万円の壁、130万円の壁」の問題点

社会保険に関しては、「106万円の壁」、「130万円の壁」がありますが、被保険者が扶養している場合、保険料の納付が不要で、給付が受けられるというのが問題です。独身者と扶養家族のいる既婚者で給与の額が同じであれば同じ保険料となりますが、給付は扶養家族分が増えるのだから、その分の保険料を負担すべきです。

年金にも「第3号被保険者」という問題があります。たとえば、夫が自営業者で妻が専業主婦の場合、夫も妻も国民年金保険料を支払う必要があります。ところが、夫がサラリーマンの場合、夫は厚生年金保険料を支払いますが、妻は年収が130万円未満であれば、第3号被保険者として保険料を支払う必要がありません。極端な話、20歳でサラリーマンの夫と結婚した場合、妻は1円も保険料を納付することなく年金がもらえるのです。

いかに、サラリーマン世帯の専業主婦が優遇されているかがわかって頂けたと思います。これは、制度を作っている官僚自身がサラリーマンなので、サラリーマン世帯に有利な制度になっているのです。

●共働き世帯を優遇する制度を創設すべき

少子高齢化によって働き手が不足することから、日本が世界と戦うためには、女性の社会進出は不可欠です。専業主婦を優遇する「配偶者控除」は廃止し、共働き世帯を優遇する制度を創設すべきです。

たとえば、夫と妻の両方が働いている場合、家事を補うためにルンバなどの家電購入費用が発生するので、双方の所得から一定の控除を認めるなどです。所得に制限は設ける必要はないので、仕事も103万円に抑える必要はなくなります。共働きした方が優遇を受けられるとすれば、積極的に働こうというインセンティブにもなると考えられます。

ただ、このような議論をすると、働けない人もいるので「弱者いじめだ」と反論してくる人もいます。たしかに、配偶者が病気や障害などで働けないという場合、一定の控除を認める必要性はあるかもしれません。ただそれは別途制度を作ればよい話です。

世代間問題研究プロジェクトが2011年に実施した「くらしと仕事に関するインターネット調査」 によると、夫の年収が1万円〜299万円の世帯では専業主婦の割合は20%しかいないのに対し、夫の年収が600万円以上の世帯では専業主婦の割合は80%前後となっています。

つまり、豊かな家庭ほど、専業主婦が多く、貧しい家庭ほど共働き世帯が多いのです。この結果を見ても、専業主婦世帯を優遇すべきであると言い切れるでしょうか。むしろ共働き世帯の方が弱者なのではないでしょうか。

社会保険に関しては、「給付を受ける者は保険料を負担する」ということを徹底し、扶養している場合には、扶養義務者がその保険料を負担するようにすべきです。

家族が増えると負担が大きくなると反論されるかもしれませんが、家族が増えれば食費が増えるのと同じであり、なぜ保険給付だけは無料でなければならないのか説明にはなりません。自営業者の妻(無収入)は年金保険料の支払い義務があり、サラリーマンの妻(年収130万円)には年金保険料の支払い義務がないというのはあまりに不平等と言えます。これらの不平等を解消していけば、「壁」はなくなり、女性の社会進出も進むでしょう。

弁護士ドットコムニュース編集部
 

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