さらば正社員 タニタ流「個人契約」が雇用を変える
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日経産業新聞 コラム(ビジネス) 2019/11/25 2:00日本経済新聞 電子版
正社員の根幹をなす終身雇用や新卒一括採用などに疑問を投げかける経済人や経営者の発言が目立ってきた。戦後の日本経済を支えてきた正社員制度は今後も不変なのか。ニュース解説イベント「日経緊急解説Live!」を11月12日に開催し、社員を個人事業主契約に切り替えているタニタの谷田千里社長と正社員の行く末を話し合った。
タニタは2017年に大胆な雇用制度を導入した。社員に1度退職してもらい、個人事業主として会社と契約を結び直す。契約切り替えは強制ではなく、本人の希望を聞く。現在社員の約1割に相当する27人が個人事業主として働いている。
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「どうすれば社員のやる気を高められるか」。08年の社長就任時から思い悩んでいたという。優秀な社員にこそ主体的に生き生きと働いてほしい。考え抜いた末に「正社員を辞めてもらう」という逆説的な発想に至った。
■3年で契約更新
個人事業主は就業規則に縛られない。毎日出社する必要はないし、1日数時間勤務でも構わない。ライフスタイルに応じて柔軟な働き方も選べる。副業も自由。「社外から仕事を依頼され、稼いでいる元正社員デザイナーもいる。頑張った分だけ収入は増えるし、スキルもいくらでも磨ける」
〔写真〕日経緊急Live!に登壇したタニタの谷田社長(右)(東京・大手町)
移行後の委託業務は正社員時代の業務がベースだ。「正社員は本来担当ではない仕事を振られることもあるが、その心配もない。契約になければ断れるし、引き受けるなら別途報酬を払う」。業務委託は3年契約で1年ごとに内容を見直す。もし契約を更新しないことになっても、残り2年は契約が続くので仕事を突然失うリスクはない。
制度導入を決めた背景には働き方改革への疑問もあるという。「残業削減ばかりに目が向きすぎ。過労死を招く長時間労働はなくすべきだが、残業上限規制は成長を滞らせる。人が新しい何かを身に付けるには時間がかかる。働き方改革の下では思い切り働けず、能力を存分に伸ばせない。個人事業主は『もっと働きたい』と願う社員に答える仕組みだ」と話す。
〔表 画像〕タニタ「個人事業主契約」の業務と報酬
通常会社は育成した社員に辞めてほしくない。引き留め策として終身雇用と年功序列型賃金は根付いた。長く働くほど給与が上がるので中途退社は損をする。ただ長期の雇用保障は副作用ももたらした。安心感が油断となり、社員の成長意欲が低下する。
■新卒採用にも
経済環境の変化が著しい昨今、かつて重要だったスキルも瞬く間に陳腐化する。時代に即したスキルを身に付けてほしいという経営サイドの思惑は社員になかなか届かない。終身雇用と年功序列を前提とした正社員が批判にさらされる一因だ。
谷田社長は「全社員が個人事業主になってもかまわない」と断言する。正社員がいない会社組織だ。21年春新卒入社からこの仕組みに賛同する学生だけを採用する予定だ。「今いる正社員も安穏としていられない。勉強しないと成長意欲が旺盛な新入社員に追い越される」
〔写真〕谷田社長は「個人事業主は『もっと働きたい』と願う社員に応える仕組み」と話す。
正社員制度は社員を会社につなぎ留めておくために発展・定着してきた。タニタは逆に会社とのつながりを緩くし、成長したい社員は思い切り経験を積めるように支援する。優秀な人材を失うリスクも伴うが、社外で磨いた腕でタニタに一層貢献してくれるはずだと谷田社長は信じている。
そうなれば働く個人と会社の双方に利益があり、Win-Winな関係を築ける。タニタのやり方が唯一の正解とは限らない。正社員の次にどんなワークスタイルが日本の成長を支えるのか。模索は始まったばかりだ。
(編集委員 石塚由紀夫)