幼稚園教諭の支援置き去り 残業代未払いも…目立つ早期離職
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/564250/
2019/12/1 6:00 西日本新聞 一面 本田 彩子
5年間勤めた幼稚園を今年3月に退職した女性。劣悪な労働環境に「もう限界だった」と訴える=福岡市
〔写真〕5年間勤めた幼稚園を今年3月に退職した女性。劣悪な労働環境に「もう限界だった」と訴える=福岡市
専門家「保育士より厳しい」
待機児童の解消に向け、保育士の処遇改善が叫ばれる中、幼稚園教諭(幼教諭)への支援が置き去りになっている。国が進める処遇改善策は認可保育園と認定こども園などの保育士らが対象で、私立幼稚園は原則対象外。その多くは、少子化による経営難や人員不足を背景にサービス残業が常態化し、早期離職者が目立っている。専門家は「保育士以上に、厳しい労働環境にある幼稚園教諭は多い」と指摘する。
「休憩もなく、トイレにさえ行けない。このままでは自分が壊れてしまうと思った」。福岡市にある私立幼稚園の元教諭女性(27)は今年3月、5年間勤めた幼稚園を退職した。
担任を務めた年中(4歳児)クラス31人の中には、発達障害の疑いのある園児が3人いた。急に教室から出て行ったり、パニックになって大声を上げたりすることがあり、丁寧なケアが必要。担任は1人なので、園児1人に寄り添うと他の園児に手が回らない。
保護者から「自分の子どもはきちんと見てもらえているのか」と言われることもあった。昼食は、園児の食事の補助をしながら、自分の食事を口にかき込む。隣のクラスの教諭に代わりを頼めるときだけしかトイレにも行けない。園には何度も「補助の先生をつけてほしい」と訴えたが、退職直前までかなわなかった。
保育時間外の負担も大きい。大半の園児たちをバスで送った後は、午後6時までの預かり保育。その後に職員会議や後輩の指導をする。行事前などは朝7時から午後11時まで働き、残業代は一切支払われなかった。高校生の時から目指した幼教諭だが、園児の前で涙が止まらなくなるなど精神的に追い込まれ、休職。その後退職した。
この園に対し、福岡中央労働基準監督署は5月、労働基準法違反で是正勧告をした。園は全幼教諭に対し、少なくとも2年間の残業代未払いがあったとして、全額を支払った。
■ ■
問題はこの園に限らない。全国私立学校教職員組合連合(全国私教連)が昨年、全国7都府県の私立幼稚園と認定こども園の教諭を対象に行った調査で、残業代が「支払われていない」との回答は8割に上った。少子化や共働き家庭の増加によって入園者数が減り、厳しい経営状況に置かれている幼稚園が多いことが背景にある。私教連は「看過できない問題だが、実際の勤務通りに残業代を支払えば、経営が成り立たないという幼稚園がほとんど」と言う。
劣悪な労働環境は離職につながる。長崎大学子どもの心の医療・教育センターが2017年、長崎県内171の幼稚園、認定こども園の教諭2325人に聞いた実態調査では、「仕事をやめたい」との回答が全体の31%。理由として最も多かったのが「給与面」と「残業・時間外労働が多い」だった。障害のある園児に対し、補助教員を置いているかどうかについては、58%が「いない」と回答しており、十分な人員確保ができていない現状も浮かぶ。
16年度の文部科学省の調査によると、幼教諭の離職者のうち、30歳未満が占める割合は61%。小学校教諭の8%と比べ、早期退職が目立っている。
「女性活躍」の掛け声の下、女性が働きやすい環境づくりのためにゼロ歳児から保育する保育園などへの支援が重視される一方、幼稚園はほぼ同じ役割を果たすようになっているにもかかわらず、一部を除いて蚊帳の外に置かれている。
九州女子短大の田中敏明教授(幼児教育)は「給与の問題は保育の質に直接つながる。国は幼児教育を重視するならば、幼稚園に対しても残業手当も含めた給与基準をきちんと示し、国レベルで保障するべきだ」と話した。 (本田彩子)