ケン・ローチ監督、日欧の過酷労働危ぶむ 「家族を想うとき」13日公開 (12/6)

ケン・ローチ監督、日欧の過酷労働危ぶむ 「家族を想うとき」13日公開
https://www.chunichi.co.jp/article/culture/CK2019120602000264.html
中日新聞 2019年12月6日

〔写真〕ケン・ローチ監督 (c)Kazuko Wakayama

 社会問題をテーマに名作を撮り続ける英国のケン・ローチ監督の新作映画「家族を想(おも)うとき」が十三日から公開される。過酷な労働を強いられる男と家族のきずなを描いた作品に、八十三歳の巨匠は「この状況はヨーロッパだけでなく、日本でも深刻なテーマのはずだ」と指摘する。

 デビューから五十年以上、労働者や社会的弱者に寄り添い続けるローチ監督の作品は、フランス・カンヌ国際映画祭などで高く評価されている。

 「家族を想うとき」は住宅と定職を失った中年男のリッキー(クリス・ヒッチェン)が主人公。長時間労働、低賃金の介護職に就く妻アビー、十六歳の息子と十二歳の娘と安い賃貸アパートで暮らす。リッキーは個人契約の宅配ドライバーとして独立するが、一日十四時間週六日の勤務。厳しい出来高払いで各種の手当もない。その上、息子の素行不良など家族の問題も起きる…。

 「リッキーやアビーのような人が、ごく普通に現実の社会を支えているという現状を訴えたかった」と語る。英国の労働者のささやかな幸せの実現が難しくなったことに「日本もそうでしょうが、原因は自由市場での価格競争。会社側が報酬を減らすため正社員を減らし、非正規雇用を増やす影響でしょう」と即答した。

 二度目のパルムドール(カンヌの最高賞)に輝いた「わたしは、ダニエル・ブレイク」(二〇一六年)では、病気で就労できなくなったが、複雑な制度により国の援助が受けられなくなった初老の男性を温かいまなざしで描いた。長いキャリアの中でローチ監督は、社会や労働環境のひずみなどを告発、警鐘を鳴らしてきた。

 しかし、実態は明るい方向にあるとはいえない。その現実に、映画人としての満足度と無力感をどう感じているのか。「満足感はないんです。あえていえば僕の映画を見て、『こんな現状を許してはいけない』と考え、行動する人が出てきてほしいという希望を持って映画を作っています」

 高齢などを理由に、かねて映画監督からの引退が伝えられていた。これが最後の作品か?との問いに「監督をする気概は衰えていない」と否定し、「具体的な次回作の構想はないが、また作ると思うよ」と穏やかに笑った。

 (竹島勇) 

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