アスベスト「飛散しない」と違法業者が主張した豊橋市の現場で屋根の泥から検出 (12/30)

アスベスト「飛散しない」と違法業者が主張した豊橋市の現場で屋根の泥から検出
http://www.asiapress.org/apn/2019/12/japan/asbestos-24/
ASIA PRESS 2019.12.30 井部正之

違法工事を実施したあげく住民にアスベストは「飛散しない」などとトンデモ発言を施工業者が繰り返した愛知県豊橋市の旧生活家庭館解体をめぐる問題で飛散の証拠が見つかった。12月13日、市が屋根上の泥からアスベストを検出したと発表したのである。(井部正之/アジアプレス)

愛知県豊橋市の旧生活家庭館で起きた違法工事後に設置された看板。「石綿封じ込め工事等」の養生外でアスベストが検出(井部正之撮影)

◆土壌調査は指導せず
豊橋市の市有施設・旧生活家庭館では1987年に一度吹き付けアスベストを除去した。今回の解体にあたって市建築課が調べたところ、狭あい部に残存が見つかった。そのため市は仕様書に除去の手順を記載して発注した。
発注仕様の手順では現場をプラスチックシートで密閉に近い状態にする「隔離養生」したうえで内部を減圧し、高性能フィルターを備えた負圧除じん装置を設置して外に漏れないようにしつつ、吹き付けアスベストを除去。その後屋根を撤去する予定だった。
ところが、工事を請け負った林光土建(同市牟呂町)は9月4〜5日、解体時のアスベスト対策を定めた労働安全衛生法(安衛法)石綿障害予防規則(石綿則)や大気汚染防止法(大防法)の規制や市の仕様書の手順を無視して屋根を撤去した。しかも同27日に市の立ち入りで見つかるまで3週間あまり吹き付けアスベストがむき出しのまま放置された。
施工業者・林光土建の林東吉社長は11月の説明会で同社の違法工事やその後に放置された期間においてアスベストが「飛散しない」などとトンデモ発言を繰り返した。
しかし、豊橋労働基準監督署は9月27日、「労働者に急迫した危険がある」場合にのみ適用する異例の作業停止命令(安衛法第98条)を掛けていた。
同監督署は筆者の取材に対し「危険な状態だった。放置したら(アスベストが)飛散する可能性がありました」と明言している。市環境保全課も飛散の可能性を認めて指導しているし、市建築課も同様の見解だ。
適正な対策なしに屋根を撤去し、3週間あまり風雨にさらして放置していた以上、現場周辺へのアスベスト飛散・散乱の可能性がある。ところが、不可思議なことに豊橋労働基準監督署や市環境保全課も現場周辺の調査については指導しておらず、市も自ら調査をしてこなかった。また外部の清掃についても実施されていない。

◆飛散・散乱の“証拠”発見
旧生活家庭館は国有地の高師緑地公園内にあり、市が無償で借り受けている。国民の財産たる国有地をアスベストで汚染してよいはずがない。飛散した可能性がある以上、調査をして散乱があれば適正な対策で除去する必要がある。
市公園緑地課は「善良な管理者としての注意をもって貸し付け物件の維持保全に努めなければならない」と契約にあると認めた。土壌汚染の調査について聞くと、「そこまで詳しく聞いてない。(建築課で)やられていると理解していた」と戸惑っていた。
11月に現地を訪れて市に指摘したところ、市建築課は調査の必要性を認め「検討したい」と話した。
市建築課は建築物石綿含有建材調査者協会(貴田晶子代表理事)に相談し、12月2日に同協会関係者らと現場確認した。その際、同協会が土壌調査の位置や箇所、範囲などの調査方針を検討するための予備調査として、違法に屋根を撤去した際に金属製の折板屋根を仮置きした玄関部分の屋根に付着した泥などの堆積物を採取した。
この泥を分析したところ12月6日、直径1〜2ミリメートルほどのアスベストの繊維束1個を発見したという。分析は実体顕微鏡でまず全体を観察し、その後偏光顕微鏡で調べるASTMインターナショナルの分析法(おそらくASTM D7521)を採用した。
すでにアスベストの飛散防止を目的とした現場養生は実施され、同監督署の作業停止命令は解除された。その養生部分の外部から今回アスベストが検出しており、周辺への飛散があった証拠といえる。市は同日、玄関の屋根全面をシートで覆う保全措置を実施させた。
12月16日に市建築課に改めて確認したところ、「採取したのは、屋根を撤去した時に一番最初に仮置きした、1段下がった玄関部分の屋根に泥がたまっていて、ここにある可能性が一番高いだろうということで堆積物を採取して調べていただいた」と説明する。
その際に採取したのはこの1カ所だけ。土壌汚染の調査は検討しているところで年内には実施したいと当時話しており、12月下旬には調査が行われたとみられる。1カ月程度で調査結果が出る予定だ。
市は施工業者の契約解除をしない方針。そのため今後は規制すらろくに理解していない違法業者にどうやってきちんと除去作業をさせるのかという難事が待ち構えている。また作業時にアスベストが飛散していないかを監視や測定で確実にすることや、除去工事が適正に完了したのかの検査も課題である。さらに土壌調査結果を踏まえて、アスベストの散乱などがさらに見つかった場合、周辺の清掃作業も必要となる。これも容易ではあるまい。土壌調査の結果とともに豊橋市の取り組みが注目される。
 

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