「黒字リストラ」拡大 19年9100人、デジタル化に先手 (1/13)

「黒字リストラ」拡大 19年9100人、デジタル化に先手
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2020/1/13 2:00日本経済新聞 電子版

好業績下で人員削減策を打ち出す企業が増えている。2019年に早期・希望退職を実施した上場企業35社のうち、最終損益が黒字だった企業が約6割を占めた。これらの企業の削減人員数は中高年を中心に計9千人超と18年の約3倍に増えた。企業は若手社員への給与の再配分やデジタル時代に即した人材確保を迫られている。業績が堅調で雇用環境もいいうちに人員構成を見直す動きで、人材の流動化が進む。

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上場企業が19年に募集(または社員が応募)した早期・希望退職者は35社の計約1万1千人だった。東京商工リサーチが調べた。企業数も人数も18年(12社、4126人)の約3倍にのぼり、多くの電機大手が経営危機に陥っていた13年(54社、1万782人)の人数を超え、6年ぶりに1万人を上回った。

35社の業績を日本経済新聞が分析したところ、全体の57%に当たる20社が直近の通期最終損益が黒字で、好業績企業のリストラが急増していることが分かった。この20社の削減幅は約9100人と、全体の8割を占めた。最終赤字の企業は15社(43%)だった。ただ、有効求人倍率は高止まりしており雇用全体としては悪くない状況が続く。

「黒字リストラ」で目立ったのが製薬業界だ。中外製薬は18年12月期に純利益が2期連続で過去最高を更新したが、19年4月に45歳以上の早期退職者を募集し172人が応募した。アステラス製薬も19年3月期の純利益が前期比35%増えるなか3月までに約700人が早期退職した。

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企業を取り巻く経営環境は人工知能(AI)のようなデジタル技術の進展を受け急激に変化している。中外製薬は「従来の技術や専門性で競争力を保つのは難しい」と人材配置の適正化を急ぐ。

高度技術を持つ人材や若手を取り込むため、高額報酬で競い合う構図も鮮明だ。NECは19年3月までの1年間に約3千人の中高年がグループを去る一方、新入社員でも能力に応じ年1千万円を支払う制度を導入した。富士通も2850人をリストラしたが、デジタル人材に最高4千万円を出す構想を持つ。

年功序列型の賃金体系を持つ大手企業では、中高年の給与負担が重い。厚生労働省によると、大企業では50〜54歳(男性)の平均月給が51万円で最も高く、45〜49歳も46万円だった。昭和女子大学の八代尚宏特命教授は「人手不足に対応するには中高年に手厚い賃金原資を若手に再配分する必要がある」と指摘する。

今年もこの流れは強まる見通しだ。味の素は20年1月から50歳以上の管理職の1割強に当たる100人程度の希望退職者を募集。20年に早期退職を実施する予定の企業は足元で9社(計1900人)あり、うち7社が19年度に最終黒字を見込む。

定年後を見据え、早いうちに新しいキャリアに転じて長く働きたい人が増えるなど、働き手の意識も変わっている。即戦力となる中高年は、中小企業などの引き合いが強い。人材紹介大手3社の紹介実績では、19年4〜9月の41歳以上の転職者数は前年同期比3割増と、世代別で最も伸びた。

実際にエーザイでは当初見込みの3倍が希望退職に応募し、コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングスでも募集より36%多く集まった。デジタル化など事業構造の変革を機に、流動性の低かった日本の人材市場のあり方が変わる可能性がある。(中藤玲)
 

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