多摩美術大学で労働組合が結成。「主張できる体制を整えなければならない」
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200127-00000001-btecho-cul
2020/01/27(月) 7:48配信 美術手帖
多摩美術大学で労働組合が結成。「主張できる体制を整えなければならない」
多摩美術大学八王子キャンパス
日本を代表する美術大学のひとつである多摩美術大学(理事長:青柳正規)で、初となる労働組合が結成された。
同大では2018年2月に、大学院彫刻専攻の学生有志が、アカデミックハラスメントなどで大学と彫刻科に要望書を提出。要望書はオンラインで公開され大きな注目を集めた。
また、14年より同大で彫刻学科教授を務める笠原恵実子教授の大学院開設科目「エクスペリメンタル・ワークショップ(仮)」への人事異動をめぐり、その不適切性を問う団体交渉をプレカリアートユニオン(ひとりから加入できる合同労働組合)を通じ、2019年5月から12月まで5回にわたり実施。結果としてこの人事異動は中止となった。
これに対し多摩美術大学は、「申入れにつきましては、真摯に対応していく所存です」とコメントしている。
今回の労働組合結成には、こうした事態が背景にあるという。現在、労組に加入しているのは、笠原のほかに、荒木慎也(多摩美術大学非常勤講師)、小田原のどか(多摩美術大学非常勤講師、同大彫刻学科卒業生)、宮川知宙(多摩美術大学彫刻学科卒業生)、寺田衣里(多摩美術大学彫刻学科卒業生)、匿名卒業生1名。それぞれに労組への加入理由と、労組へ期待することを聞いた。
□笠原恵実子
学科の独立性が強いという特徴の裏で、問題が起きても隠遁する体質が育まれたと考えています。そういった状況で起こるハラスメントの数々を目の当たりにし、しっかり主張できる体制を整えなければならないと考え、労組の発想に至りました。現在加入者は6人(教員3人、卒業生3人)と少ないが、考えを共有できる方々は増えていくと思っています。
ハラスメント委員会の健全な在り方を求め、学科を越えた横断的な関係を築きたいです。そして、自主的に口を閉じるような閉鎖的発想を持つ、そういったこととは正反対のアートの在り方を明確にしたいです。
□荒木慎也
私は語学の非常勤として雇われている身なので、彫刻学科のハラスメントを直接体験していません。ただ今回は学生たちが声を挙げたこと、その学生たちの主張が正当であるにもかかわらず孤立しかねない状況を見て、サポートが必要だと感じ、組合に参加しました。
大学には、労働組合を上手く利用してほしいと考えています。強いリーダーシップによるトップダウンの意思決定だけではない、下からの意見を吸い上げる機構としてうまく活用すれば、大学をよりフレキシブルで魅力ある空間にすることも可能ではないでしょうか。
□小田原のどか
2018年に表面化した母校のハラスメント問題では、在学生たちが実名を明らかにするかたちでの抗議をしたにもかかわらず、学科・大学側は一度も誠意ある対応を取りませんでした。大きな組織と「対話」のテーブルに着くためには、憲法上保障されている「団体交渉権」(労働者側の団体交渉申入れに対して、使用者は正当な理由がないかぎり交渉に応じなければならず、これに違反すれば不当労働行為となる(労組法7条2号))を利用することが最良の方法だと考え、労働組合の結成に参画しました。
大学の第三者委員会が認めた教員間ハラスメントの被害者である笠原教授の彫刻学科からの「追い出し」は、団体交渉の結果阻止することができましたが、自浄作用のない学科という問題の根幹はなんら変わっていません。そのような「校風」については、ボトムアップ型の「改善提案」を絶えず行っていくことが有用であると考えます。そのために労働組合の仕組みを利用していく計画です。
具体的には、ハラスメントが繰り返えされないよう、多摩美術大学でファカルティ・ディベロップメント(教育の質をさらに向上させるための組織的取り組み)実施のための提案を行いたいです。
今後期待することは、常勤の教員はもちろん非常勤講師や大学院生でも加入できるこの組合を、学科を横断した研究のプラットフォームとしても活用することです。
□宮川知宙
彫刻学科の一連の問題は、2018年に私を含む学生有志で公にされ、大学当局の対応や交渉はあったものの、彫刻学科研究室が徹底的に無視することで収束が図られました。多摩美を修了するにあたり、結果として有耶無耶にされたこの問題に今後どのように関わることができるのか考えていたところ、所属する職場や雇用形態に関係なく加入できる合同労組というかたちを知り参加しました。
彫刻学科に関しては、学生がより自由に素材・技法を横断し様々な表現の可能性を探ることができる環境づくりを期待しています。具体的には教室制の導入や各工房の技術者の確保などが考えられますが、いずれにせよ現在在学している学生の表現に合わせた変化が常に求められています。
彫刻学科だけに留まらず大学全体としての教育環境改善を望むのはもちろんのことですが、その実現には教員と学生双方の積極的な姿勢が不可欠と考えます。学生がこのような組合の活動について知ることは、大学が、学生それぞれが抱える問題について自分自身が考え、意見できるような場所になるきっかけになり得ると思います。
□寺田衣里
学生有志としての活動では、大学側の対応も明らかに要領が悪く、こうした意見や要望はほとんど大学側まで上がってこないこと、またそうした議論がなされない土壌であることを痛感しました。やがて卒業する「学生」という立場からの交渉は厳しく、2018年3月に要望書をウェブ上で公開した後も、要望書に対する学科からの回答がないことで、学科内の改善については有耶無耶にされたままでした。
大学と労使関係にない私は協力というかたちでの参加にはなりますが、誠実な回答が義務付けられる組合の団体交渉でなら、すでに膠着状態となった学生有志の問題提起からもつながる交渉が、やっと可能になるのだと感じます。いっぽうで、すでに卒業し、学生という立場でもなく、また大学と労使関係にもない私の立場からは、大学内部の問題について発言できることはほとんどないと考えていました。それでも、在学中だった2017年に笠原さんの勤続を求める嘆願書を作成し署名した立場として、微力ながらも協力し見届けるべきだと考え参加しました。
大学には、自浄作用が働くように、学内の仕組みの見直しを期待します。彫刻学科の問題については、特定の誰が悪いというよりは、大学や学科の構造において、閉鎖された環境の中で生じてきたものだと私は考えています。こうした問題は彫刻学科や多摩美の中だけでなく、社会の中のあらゆる場所で起こりうるものです。一人ひとりが、自分の属する社会とその仕組みについて考え行動することが重要だと感じています。