終わらない氷河期〜疲弊する現場で 「40歳で人生閉じてもいい」と思った 非正規図書館司書の苦悩
https://mainichi.jp/articles/20200205/k00/00m/040/094000c
毎日新聞2020年2月6日 07時00分(最終更新 2月6日 13時04分) 牧野宏美
「僕でも読める本ありますか」。東京都内の中学校にある図書室。昼休みや放課後になると生徒が集まり、学校司書の山上洋子さん(42歳、仮名)に次々と話しかける。山上さんは、読むのが苦手な子には写真集や絵本、読書に慣れている子にはあまり知られていないが定評のある海外の作家の小説と、生徒の適性を見て、本を薦める。調べ学習の補助なども担い、時にはクラスになじめずにやって来る生徒の話し相手にもなる。本の知識はもちろん、コミュニケーション能力も問われる仕事だ。
「生徒から『面白かったよ』と言われるのが何よりうれしい。本とつながってくれたと実感できるから。よしっと心の中でガッツポーズします」。非正規公務員や派遣社員の司書として15年以上働いてきた山上さんはそうにこやかに語った後、視線を落とした。「やりがいはあるんです、でもずっと生活が厳しくて……」
子どもが好きで幼稚園教諭に
千葉県で育った。子どもが好きで幼稚園の先生に憧れ、短大で幼稚園教諭と保育士の資格を取った。1997年に卒業し、教育実習先の私立幼稚園に就職。就職氷河期と言われていたが、幼稚園教諭の求人は少なくはなかった。すぐに5歳児のクラスを担任したが、長時間労働が慢性化していた上、クレームが多い保護者の対応にも追われて心労で眠れなくなり、4年で退職に追い込まれた。
休養している間、大学で講習を受けて司書の資格を取得した。幼稚園で子どもたちに絵本の読み聞かせをするうちに好きになり、本に携わる仕事がしたいと思ったからだ。2002年から千葉県の公立図書館で非常勤の司書として働き始めた。
学校図書館や公共図書館で働く職員は、いまや約7割が非正規。自治体の財政悪化などを背景に、バブル崩壊後の94年以降、公務員の非正規化が急速に進み、図書館司書はその格好の対象となった。
非常勤司書、楽しいが給料は…
公立図書館での司書の仕事は、利用者の要望に応じて資料を調べたり、子どもたちに読み聞かせをしたりと楽しかったが、給料は少なく、「税金や国民健康保険料を払ったらほとんど残らなかった」。経済的にゆとりが欲しいと考え直し、1年で保育士の正規職に転職。しかし、そこは家族経営の保育園で、園長らによるパワハラが横行していた。理不尽なことで度々怒鳴られたり、残業代を出さないのに「おもちゃは手作りしろ」と命じられたりし、再び不眠がひどくなって1年で退職した。