今年3月に産業開発研究所は上記の調査書を公表した。副題は「府内企業の事業戦略と人材の確保・育成・活用への取組に関する調査」である。その「まえがき」は、「最近の大阪経済の動向をみると、住宅建設の現象など一部に弱さがみられるものの、大型小売店販売額、輸出、所定外労働時間が増大するなど、景気は回復基調で推移しています」「人材をいかに効果的に確保・育成・活用していけるかに大きくかかっていることは言うまでもありません」と、そして、最後の第5章では、「雇用のミスマッチを解消し、働く意欲のある人々に就労機会を与えるよう就業率の向上のための取組を一層強化していくことが必要である」と。
この調査書には「貧困」という活字自身無いが、大阪府の経済分析でも産業政策でも大ボケである。ボケているどころか、財界好みのフレーズが綴られているのである。この調査書だけで、批判は当たらないのかも知れないが、明らかに現在の府産業政策は誤っており、さらに橋下知事「維新プログラム」によるファッショが、貧困を強めようとしていることに気持ちを暗くさせている。
「非正規社員の増加に係る問題」に、何が書かれているか見てみよう。「規制緩和政策(多様かつ柔軟な雇用形態)によって、長期不況にあえいでいた日本経済が反転上昇に転じたのも事実であろう」と就業構造問題の面を見ている。非正規問題を労働者の立場から見る調査でないことを知りながらも、非正規問題を雇用量や需給面だけでしか見ることができないのである。そして、極めつけは、「労働契約を解除しやすい労働力の利用が企業にとって都合が良いという側面がある。非正規社員の契約解除が困難になれば、そもそもはじめから雇用しないという状況になる危険性がある」と分析し、「正社員の雇用条件をすべてそのまま非正規社員に当てはめるのは難し」ことを前提にして、賃金格差を問題視している。有期雇用の不当性など、微塵も感じていないのである。
調査では、非正規労働者は全労働者の38.2%をしめているが、1994年の20%から急増していること、府内人口が2000年をピークに減少し、2030年には現在の11%減の786万人となること、その時、全人口にしめる15歳以下は1980年の3分の1、9.8%のみとなる予想も紹介している。
失業問題である。2005年度の国勢調査資料をつかって、大阪府の完全失業率を8.6%(全国平均6.0%)とし、全国を大幅に上回っていることを示している。沖縄県に次いで2位である。開き直ったのではないだろうが、「大阪の失業率は全国平均を下回ったことがない。したがって、大阪府の失業率が高いのは短期的な景気循環の問題ではない」と。特に、痛ましいのは、34歳までの青年が完全失業者の44.8%もしめていることだ。