羽衣国際大学の池田と言います。創立当初から、「働き方ネット」の活動に注目し、何度か講演会やシンポジウムにも参加させていただいています。1992年に全国で初めて過労死問題を取り上げた演劇「突然の明日」が大阪で森岡先生、松丸先生、岩城先生などの熱意で公演されることになった時、関西勤労協の中田進先生の代理として演劇の実行委員会に参加したのが、すべての始まりです。
そういうわけで事務局の多くの方と面識がございます。その1992年から、「大阪過労死を考える家族の会」の事務局メンバーの一人として活動してきました。北村さん死去の直後は、1、2度そちらの会議にも参加させていただいたと記憶しています。
現在、大阪私大教連(大阪私学教職員組合の傘下)の副委員長をしております。執行委員会の会議後の「一杯」の席で、しばしば学生の就活や雇用問題が特に三役の中で話題になり、一つの組合側からの対応策として、全国の私大教連が、関西で言えば大阪と京滋の私大教連が合同して、関西経済連合会あたりに、「もっと雇用を増やせ」と交渉に行くべきではないか、などと話し合っています。
このメーリングリストにも初期の頃から加えていただいており、事務局の皆様の動きやご発言は、いつも拝見しているのですが、実はホームページを拝見したのは初めてです。とても充実したHPで感心いたしました。それですぐに「お気に入り」に追加しました。
さて、「働き方ネット」にも関わると思うのですが、先日「大阪損保革新懇談会」(以下、損保革新懇)というグループ(森岡先生もかつて講演なさっています)にお招きいただいて、「『就活』の現場から今日の雇用問題を考える」というテーマを頂戴し、講演させていただきました(案内ビラ添付)。
講演は予定の60分を超えて75分になりました(もちろん主催者の了解を得て)。なぜそうなったかと言うと、このテーマの問題を「素人」が調べていっても、これは今から考えると当然の帰結なのですが、この問題(現在の厳しい雇用情勢のもとで早期化・長期化・過熱化・複雑化している「就活」(企業サイドからの求人活動))を“間口”に問題を掘り下げていくと、結局現在の雇用問題全般、そして今や1100万人を超えるとも言われる「ワーキングプア」問題にも行き着き、そしてさらにこの問題を真正面から考えるということは、いったい今日本というこの国がどうなっているのかを、俯瞰的に眺め直すことになるのだなあと、一国民・市民として気づいた次第です。
哲学でご存知のように「連関」という概念がありますが、問題意識の連関が連関を呼び(参考文献が別の参考文献を呼ぶ)、「就活」という「木」を見ていた状態が、少し上を見上げて、枝ぶりや葉の状態、隣の別種の木と次々と目を転じていくと、「森」全体が視野に入り出した、という感じでしょうか。
あと、損保革新懇での講演会後の交流会で、損保現場の方から、驚くべき話をお聞きしました。ある大阪の損保会社では就職2年目の新人に対して、早くも「退職勧奨」が始まっているというのです!損保業界も徹底して成果主義が浸透している業界だと思いますが、企業の「人材育成」志向は遠く後退し、逆に「即戦力」志向がここまで余裕なく、新入社員さえ襲っています。
以上の問題を総合的に、あるいは関連づけて考える際に、「働き方ネット」のHPはとても有益です。これは残念ながら講演後に知ったのですが、例えば森岡孝二先生の連続講座「第72回 就活生は金太郎飴状態」や11月20日付朝日新聞「これって『ブラック企業』就活学生らに自衛の動き」などは大いに参考になりました。
長くなりましたが、私が講義を準備する中で、非常に驚いたのは、多くの大学の中に
今「就活サークル」が相当数出来ていたり、昨年12月に行われたある大学の入学前教育で、入学前の高校3年生に、「就職活動大変だよ、今からしっかり準備しなくちゃ」的なキャリア教育が始まっていることです。これはその部署の担当者のある種“焦り”であるかと思いますが、大学側ではそれほどまでに過熱化しているという一つの証左だと思います。
しかし、講演の視聴者に一番強く反応があったのは、大学3年生の10月から始まる就活に欠かせないリクナビ、マイナビ(リクルート、毎日コミュニケーションズ)、学情など就職サイトのオプション機能のことでした。これはその場でのいわゆる「ここだけの話」になり、ネットに載せるには差し障りがあり、このメールにも書くことができません。でもそれぐらいインパクトのある情報だということでもあります。
この就職ナビのことについて触れたついでに、よく言われる企業と学生の「ミスマッチ」のことについて述べます。今日本に会社と名のつく企業は、約260万社(資本金1000万円以上で110万社、1億円以上で3万社)あるそうですが、その中で、こうしたナビに登録している企業はたった約1万7千社なのだそうです。たしかに様々な要因で、学生は「大企業志向」になっていると言われますが、これは現状では致し方ない(賃金や労働条件の大きな格差など)面もあると思います。しかしもう一面では、中小の優良企業に出会う場面を与えられていない、したがって「ミスマッチ」などではなく、選ぶ対象、見える企業が最初から限定されていて、「出会いレス」状態によって引き起こされている現象ではないかと思っています。
ちなみに、企業サイドに立って考えると、各就職ナビの企業の登録料は、ざっと言ってしまうと150万円前後だとお考えください。大企業が、もし6つのサイトを使っても900万円、こんな効率のいい宣伝媒体はありません。ところが、この数百万円という広告料は、小企業・零細企業にとっては、簡単に出せる額ではありません。1万7千社にとどまる原因はそこにあるのだと思います。
以上、長くなりまして申し訳ありません。「働き方ネット」の中心メンバーの皆さんにとっては、すでにご存知のことばかりかも知れませんが、私の学習過程で自分の認識がどういうふうに広がり、あくまで私にとってですが、どういうふうに深まったかの一端を書かせていただきました。最後までお読みいただきましてありがとうございました。
2011年2月14日 (羽衣国際大学 池田憲彦)