大阪市の橋下徹市長が市議会に提出した、職員の政治活動を規制する条例案の委員会審議が始まる。地方公務員法にない「原則懲戒免職」の規定を設け、禁止の範囲も国家公務員並みに広げたものだが、市議会最大会派「大阪維新の会」と第2会派の公明市議団との協議で、「原則免職」は緩和される方向になった。
だが、公務員も政治的中立を損なわない限り、思想・良心、表現の自由を認められているはずだ。条例による規制は、憲法が保障した個人の基本的権利を侵害しかねない。
条例案の提出は、昨年秋の市長選で、市幹部や労働組合が橋下市長の対立候補の前市長を組織ぐるみで支援していたことが明るみに出たのが発端だった。市は全職員に政治・組合活動に関するアンケートを実施し、労組側が思想信条の自由を侵害されたと提訴する経緯もあったが、労使の癒着など市の体質に対する市民の強い不信感を背景に、橋下市長は職員に厳罰の姿勢を示した。
当初は違反職員に刑事罰を科す予定だったが、政府は、地方公務員法に違反すると指摘する一方で「懲戒処分により地位から排除すれば足りる」との見解を示した。条例案はこれを逆手に取る形で定めたものだ。
規制される政治活動は、国家公務員法に基づく人事院規則の条項を借用している。
政治的団体の刊行物の発行・配布、行進など示威運動の企画・指導、政治目的の演劇の演出・主宰などを規制し、これらは援助することも禁止の対象だ。公務時間外であっても許されない。
橋下市長は「地方分権の時代には国家公務員並みの制約が必要」と主張する。しかし、自治体職員は市民活動に接触する機会も多い。脱原発の集会への参加や消費増税反対のビラ配布はどうなのか。規制の線引きはあいまいだ。
国家公務員の政治活動の規制をめぐっては、違憲判決も出ている。東京高裁は10年、休日に共産党機関紙を配布した旧社会保険庁職員に対し「処罰は国家公務員の政治活動の自由に対する限度を超えた制約」と逆転無罪を言い渡した。西欧先進国に比べて政治活動の禁止範囲は広すぎると指摘しており、表現の自由は重要な権利という認識を国民が深めていることにも言及している。
橋下市長は、教育行政への政治関与を強める条例や、同一の職務命令に3回違反すれば職員を分限免職にできる条例を相次いで制定し、教職員への統制を強めている。公務員の規律強化は必要だが、それが行き過ぎたものであれば職員の萎縮を招く。個人の自由を縛る規制は、必要最小限であるべきだ。