北海道新聞社説 被ばく量偽装 「危険」も下請け回しか

北海道新聞、2012年7月24日

東京電力福島第1原発事故の収束作業を請け負った福島県内の建 設業者の役員が、作業員に鉛板で覆った線量計を装着させていたこ とが分かった。

放射線の遮蔽(しゃへい)効果が高い鉛で線量を低く抑え、法律 で決められた限度を超えるのを防ごうとしたとみられる。厚生労働 省が労働安全衛生法違反の疑いで調査を始めた。

現場の放射線量はいまなお高い状態が続く。作業は何よりも安全 が基本だ。にもかかわらず線量を低く偽装しようとしたことに驚き を禁じ得ない。役員の責任は重大だ。

東電は昨年3月の事故後、作業員の足に放射性廃棄物が付着する などの被ばく事故が相次ぎ、厚労省などから度々指導を受けてきた。

東電は、下請け業者の安全管理を軽視していたとみられても当然 だ。管理責任は免れない。今回の偽装を下請け業者の問題だけで終 わらせてはならない。

東電や厚労省は作業員の健康状態を追跡するとともに、こうした 偽装が常態化していなかったか、調査に全力を挙げるべきである。

業者が請け負ったのは、汚染水を処理する設備の配管が冬季に凍 結しないよう保温材を設置する作業だ。

関係者によると、昨年12月、役員が作業員に鉛板のカバーで胸 ポケットに入れる線量計を覆って作業をするよう指示した。カバー は5人が1回だけ装着したという。

問題は不正の動機だ。業者幹部は「線量限度を超えれば仕事をも らえなくなると思った」と話している。

収束作業で放射線を浴びた約2万人の作業員の大半は地元の下請 け業者に所属している。工事によっては5次下請けもあり、下に行 くほど危険な作業が押し付けられる。

それでも仕事を引き受けるのは、下請けの立場の弱さからだ。地 元に有望な工事がない中、原発産業に依存せざるを得ないのが実情 だ。

下請け業者にしわ寄せを回す構造が変わらなければ、不正は根絶 できない。電力会社に下請け業者の安全管理責任を持たせる制度も 検討する必要がある。

線量を低く見せる偽装工作は線量計を外すなど他の原発でも行わ れたとの証言がある。厚労省はこの指摘についても徹底的に調査すべきだ。

福島第1原発は廃炉まで40年もかかる。道のりはまだまだ長い。 被ばく量が限度を超える人も増え、さらに多くの作業員が必要となろう。

安全面がおろそかになっては作業員が集まらず、事故の収束遅れ にもつながりかねない。1人当たりの作業時間の短縮や厳格な放射 線管理など安全性の確保とともに、作業に見合った待遇改善が欠かせない。

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