(記者有論)休日労働抑制 努力規定では効果に疑問 阪本輝昭

 
 休みが半年で4日だけ。連続勤務は最大で91日――。そんな働き方をしていた女性が心臓疾患の疑いで急死し、労災(過労死)認定された。 時間外労働は月平均70時間余り。国の過労死認定基準(過労死ライン=月100時間か2〜6カ月の平均80時間)未満だったが、休日の少なさによる疲労の蓄積が考慮された。
 2015年11月に亡くなったのは山口県の弁当販売会社員・斎藤友己さん(当時50)。タイムカードから見える典型的な1日はこうだ。午前7時過ぎに出勤し、車で弁当を配送して午後1時前に休憩。15分程度で昼食をかきこみ、午後4時過ぎに退勤――。土日も同じように働いた。
 労働基準法上の法定労働時間は1日8時間(週40時間)で、雇い主は「毎週1日か4週で4日」の法定休日を必ずとらせる義務がある。ただ、労使が協定(36〈サブロク〉協定)を結んでいれば時間外や法定休日にも働かせることができ、現在は事実上の「青天井」。斎藤さんの会社の36協定でも法定休日労働は上限なしだった。
 3月末、政府は「働き方改革」の柱として、時間外労働に罰則付きの上限を新設する「実行計画」を決めた。年間の上限は休日労働を含まず年間720時間。月あたりの上限は休日労働を含むものの、繁忙期は過労死ラインぎりぎりの数字にとどめられた。そして、休日労働への上限規制は計画に盛り込まれなかった。
 なぜ休日労働は別扱いなのか。
 法定休日に働かせる場合の賃金割増率は35%以上と、時間外労働(25%以上)より高く設定され、経営者側に強く抑制が働く▽36協定は労使が合意しないと締結できず、法定休日労働に関しても労働組合のチェック機能が働く――という複数の「歯止め」がある、と国側は説明する。
 だが厚生労働省の13年度調査では、法定休日の36協定がある企業などのうち2割強で、1カ月(4週)のうち4日とも働かせることを可能とする内容に労使が合意していた。

久々の休みでも、斎藤さんは会社から「人手が足りない」と電話があれば家を出た。家計を少しでも助けようと無理を重ねていたという。会社もそんな斎藤さんに集中的に休日出勤を頼んだ。勤務先の社長は取材に「36協定の範囲内。皆に休まれたら小さな会社は回らない」と話す。
 厚労相の諮問機関・労働政策審議会は今月5日に出した建議の中で、休日労働の抑制を努力義務とする規定を労基法の指針に盛り込むことも求めた。しかし、罰則はない。「休みをちゃんととれる」会社になることが働き手確保などの面で利益となり、仕事の見直しにもつながる――。そんな先々を見据えた「改革」が経営者や働く現場に浸透しない限り、効果は期待できない。今後法整備に取り組む政府はもちろん、企業も労働組合も重い宿題を背負った。 (さかもとてるあき 大阪社会部)

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