東京社説 2012選択(6) 雇用創出 政治の意思が問われる

東京新聞 2012年12月12日
 
雇用の現状は、政府が発表する数字より格段に厳しい。雇用の大部分は民間活動によるものですが、だからこそ環境を整備する政治の力が問われます。
 
総務省が発表した十月の完全失業率は4・2%で三カ月連続で横ばいでした。しかし、これ以外にも「就職したいが、見つかりそうもない」と求職活動をしていない人が同省の調べで約四百十万人います。こうした潜在的失業者を加えた実質的な失業率だと約10%にも達します。さらに国は、企業に雇用調整助成金を支給して正社員の雇用を支えていて、これも見かけの失業率を引き下げています。
 
失業率だけではありません。正社員が減少し続け、代わって賃金が低く立場も不安定な非正規が急増、働き手の三人に一人強に。日本は一九九七年以降、主要先進国で唯一、賃金が低下傾向を続ける国になってしまいました。
 
こんな喫緊の課題に各党はどう対応するのか。民主党と公明党は、医療・介護や環境などの成長分野を育て、四百万人以上の雇用創出を掲げます。みんなの党は、民間の活力を引き出す規制緩和で新産業育成を公約。自民党は雇用には直接触れず、デフレ・円高からの脱却を最優先する姿勢です。確かにデフレこそが雇用悪化の元凶で、デフレのままでは成長戦略の成果も多くは望めません。
 
ただ忘れてならないのは、現在の非正規急増の原点は自民党政権下の九九年に労働者派遣法の規制を緩和したことです。二十六業務に限られた派遣労働を原則すべての業務に認められるようにした。これは「雇いやすくすれば失業率が下がる」という経済界の意向を受けたもので、企業の人件費圧縮と利益拡大に貢献する一方で、大量の低賃金労働を生みました。
 
日本維新の会が、批判を浴びて修正した「最低賃金の廃止」も賃金を下げれば雇用が増えるという同じ論法ですが、賃金下落に歯止めがかからず生活保護制度をも崩壊させかねません。
 
民主や公明党のいう雇用創出は、基本的に民間が行うものです。例えば、介護分野は成長が見込めますが、低報酬が一因で離職率が高く、人手不足です。そこで高いお金を払えば高サービスが受けられる「混合介護」を解禁すれば、報酬引き上げになりうる。そんな制度設計をするのが政治の役割です。
 
放置できない雇用問題は、政治の意思で立て直してほしい。

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