東京社説 本土訓練開始 安保とは、考える機会に

東京新聞 2013年3月8日

 沖縄の基地負担軽減につながるとは考えがたい。本土で始まった垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの低空飛行訓練。危険と騒音を強いるのなら、日米安全保障体制への反発を増幅させるだけだ。
 
オスプレイは昨年十月、米海兵隊普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に十二機配備された。このうち三機が六日午後一時十分ごろ、普天間飛行場を離陸。午後三時十五分ごろから約二十分間に、高知県本山町や愛媛県新居浜市別子山などの上空を東から西に通過する様子が目撃された。
 
和歌山県から愛媛県にかけてのいわゆる「オレンジルート」だ。
 
オスプレイは操縦ミスで度々墜落し、安全性に疑念が残る軍用機である。それを、かつて米国防長官が「世界一危険」と指摘し、日米両政府が日本側への返還で合意した米軍基地に強行配備する非合理性をまず指摘せねばなるまい。
 
在日米軍基地の約74%は沖縄県に集中する。騒音や事故、米兵の犯罪など基地負担に苦しむ沖縄県民が、オスプレイ配備による負担の上乗せに反対するのも当然だ。
 
その沖縄県民の負担を、沖縄以外の都道府県がオスプレイの訓練を受け入れることで軽減できるのなら、まだ意味がある。しかし、本土での訓練は全体から見ればごく一部であり、日数も限られる。負担の分かち合いには程遠い。
 
さらに今回、米軍から防衛省に連絡があったのは六〜八日という日程や大まかな訓練内容だけという。その訓練ルートも開始前日、急きょ変更が通告された。詳細が分からず、安全性にも不安がある中で、訓練を受け入れろというのは、どだい無理な話だ。
 
そもそもオレンジルートを含めて、米軍の低空飛行訓練のルートは、日米安保条約と地位協定に基づいて日本が提供した施設・区域でも訓練空域でもない。米側が独自に設定し、日本側も条約上やむを得ないと黙認したものである。
 
日本国民の頭の上を外国の軍用機が縦横無尽に飛び回る。県民の願いむなしく、沖縄の基地負担は一向に減らない。日米政府間で合意したオスプレイの飛行ルールすら守られない。これが安倍晋三首相が高らかに復活を宣言した日米同盟の姿なのか。
 
こうした不正常な状況を正さなければ、日米安保体制を「アジア太平洋地域の平和と繁栄の要石」(オバマ米大統領)とすることは難しい。オスプレイの本土での訓練開始は、日米安保条約の意味をも考える機会とせねばならない。

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