毎日新聞 2013年12月12日 02時35分(最終更新 12月12日 05時59分)
猪瀬直樹東京都知事が、昨年12月の都知事選を前に徳洲会グループから5000万円の提供を受けていた問題で、9日と10日の定例都議会で集中的な審議が行われた。
猪瀬氏は、個人的な借入金との姿勢を崩していない。一方、肝心な点で説明が変わったり、具体的な場面について「覚えていない」などと、のらりくらりの答弁を繰り返したりした。誠実に説明責任を果たそうとしたとは、到底言えない。
都議会各会派からは、知事を続ける資格はないとの厳しい意見も出始めた。猪瀬氏は、1年間の知事給与返上の考えを示し、続投の意欲を見せた。だが、東京五輪の準備や来年度予算案とりまとめなど都政の重要課題の停滞を危惧する声は強い。もはや重責は担えないのではないか。都議会は今週末の議会閉会後も総務委員会で追及の構えだ。有権者が納得できる説明がなければ、猪瀬氏は自ら身を処して辞職すべきだ。
昨年11月6日、都知事選立候補を決めた猪瀬氏は、徳田虎雄前徳洲会理事長に面会し、あいさつした。同20日、前理事長の次男の徳田毅衆院議員から直接5000万円を受け取った。この経緯をみれば、選挙のために資金提供を受けたと考えるのが普通だ。一方で、徳洲会グループは都から補助金を受けており、事業上のつながりも深い。
先月22日に授受の事実が明らかになり、猪瀬氏は釈明に追われた。26日に借用証を公表したが、名前と金額が書かれていただけで、当時作成されたものか疑問が相次ぎ、金の性格についての疑惑はふくらんだ。
その借用証は、5000万円返還後、仲介者の新右翼団体「一水会」の木村三浩代表から郵送されてきたと10日の審議で猪瀬氏は明らかにした。そもそも、なぜ長年の友人とはいえ木村代表が徳田一家との仲介に入ったのかほとんど説明がない。
10日の審議では、貸金庫は5000万円の授受前日に妻に借りるよう指示したとも説明した。従来は、授受当日、「大金を目の前に驚き、貸金庫にしまわねばと思った」と答えていた。説明を変えたのは、貸金庫の契約日を確認されれば言い逃れがきかないからだろう。銀行に記録の残らない現金での授受という方法を含め、5000万円は用意周到に受け取った疑念が一層つのる。
一方、徳洲会病院の事業については「知らない」を連発し、資産報告書への不記載は「頭が混乱していた。事務的なミスだった」と、逃げの答弁に終始した。これでは納得できないのは当然だ。都議会は、これ以上明快な説明がなければ、偽証の罰則がある百条委員会設置や不信任決議なども視野に置くべきだ。