道新社説 生活保護減額 安全網の理念はどこへ

北海道新聞 2013/01/29 

 生活保護費の引き下げについて、政府は新年度から3年間で、約670億円減額する方針を決めた。

 保護費のうち日々の生活費に当たる生活扶助の基準額を6・5%下げる。受給者214万人のほとんどが対象で、世帯によっては月2万円の減額を迫られる。

 デフレによる物価の下落に加え、低所得者の一般的な生活費より、基準額が上回っているケースがあることを理由に挙げる。

 しかし、保護費の引き下げの影響は受給者だけにとどまらない点を無視するわけにはいかない。

 保護費の基準は、就学援助や医療費の軽減など低所得者対策に連動しているからだ。引き下げれば貧困に拍車をかけ、受給を申請する人が増えるだろう。

 生活保護は、憲法で保障された健康で文化的な最低限の生活を維持するための最後の安全網である。基準額の改変で貧困層がさらに窮地に追い込まれるのであれば本末転倒だ。

 自民党は、保護費の10%削減を衆院選で公約しており、初めに減額ありきの発想と受け止められても仕方ない。これでは問題点を積み残したままの見切り発車だ。

 政府はまず、受給者の実態や引き下げによる影響を徹底的に解明し、暮らしが立ちゆかなくなる人が出ないよう対策を講ずる必要がある。
低所得者対策のうち、就学援助は、家計の苦しい世帯の小、中学生に学用品代や給食費、修学旅行費などを支給する制度だ。

 基準額を基に対象を定めており、10%下げれば援助を受けている約156万人のうち、5%近くが対象から外れる恐れがある。

 生活保護と連動する最低賃金の水準にも悪影響を与える。賃金抑制につながり、非正規労働者の待遇改善もままならない。

 こうした問題点の解消こそが政府が最優先に取り組む課題だ。

 厚生労働省によると、基準額は人数の多い世帯ほど減額幅が大きい傾向にある。

 都市部の30代の母と4歳の子の世帯では、現在の15万円が3年後には9千円減、60代の単身者は8万1千円から2千円減る。

 受給世帯の子どもが、十分な教育を受けられないまま成長し、その後も保護を受け続ける「貧困の連鎖」が深刻な問題になっている。

 家庭の状況を考慮しないまま減額すれば、教育を受ける機会が狭まり、状況は悪化する可能性がある。

 安倍晋三政権は2%の物価上昇を目標としているが、物価が上がると、結局は支給額を引き下げるのと同じことになる。こうした悪循環を招く政策は到底理解を得られない。

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