北海道新聞 2014年2月27日
次々と明らかになる非常識な言動に、公共放送のトップとしての適格性をあらためて問いたい。このままでは職責を全うすることは困難と言わざるを得ない。
NHKの籾井勝人(もみいかつと)会長の国会や経営委員会での発言をめぐる混乱が日ごとに深刻度を増している。
国民の受信料で支えられた報道・言論機関として、政治的中立性を貫けるのか。巨大組織の運営をこの会長に任せられるのか。
就任後、わずか1カ月にして、早くも信頼が根底から揺らぐ。
言うまでもなく、会長を選任した経営委員会の責任は重い。最高意思決定機関である委員会は、会長の罷免権を併せ持つ。新会長の適格性をあらためて検証すべきだ。
籾井氏には、自らの進退の判断を求めたい。
迷走は、就任記者会見での従軍慰安婦など政治・外交分野の懸案事項に関する、公私をわきまえない発言に端を発した。
当然ながら、衆参両院の予算委員会、総務委員会などに連日、参考人として招致されているが、その答弁は異様さが際立っている。
就任時の問題発言は取り消し、すべては決着済みと言わんばかりの態度で臨んでいるからだ。答弁は「放送法を順守し、職務を全うする」との内容に終始している。
論議が深まらないどころか、真剣さを欠いた国会軽視の姿勢をさらけ出しているといっていい。
驚くのは、釈明の弁は国会だけのことで、今月12日の経営委員会では、歴史認識など持論の正当さをあらためて主張したことである。
NHKが公開した議事録によると、美馬のゆり委員(公立はこだて未来大教授)の質問に対し、「私の発言の真意とはほど遠い報道がなされている」「私は大変な失言をしたのでしょうか」と答えていた。
国会と経営委員会でなぜ発言が異なるのか。不信を抱くのは当然だ。
就任直後には10人の理事全員に対し、日付欄を空白にした辞表を提出させていたことも明らかになった。人事権をかさに権力を強化する上意下達の典型と言えよう。
こうした会長の言動などを理由に、米国大使館がケネディ大使への取材を拒否したとの報道がある。真相はともあれ、NHKは視聴者に対し、経緯を明確にする責務がある。
籾井氏に対しては国内外の市民団体から辞任要求が突きつけられ、苦情も殺到している。このままでは到底、視聴者の信頼は得られまい。
安倍晋三首相と交友関係にある人物が多数を占める経営委員の言動も混乱を増幅している。首相の任命責任も厳しく問われねばならない。