朝日社説 総選挙・くらし―公約の先にあるもの

朝日新聞 2012年12月14日

  社会保障や雇用など、くらしに密着した政策で政党や候補者を選びたい――。

 そう考えている有権者も多いだろう。

 3年前、政権をうかがう民主党が年金や高齢者医療の抜本改革、子ども手当といった大仕掛けの政策を打ち出したのに比べると、今回は大きな争点にはなっていない。

 しかし、各党の公約を子細に読んでいけば、文言の先にある社会像と課題が浮かんでくるはずだ。

 自民党や日本維新の会は、自助を重視する。社会保障を抑制し、雇用規制は緩和の方向性が色濃い。

 たとえば、自民は「生活保護の見直し(国費ベース8千億円)」で歳出削減を図る。

 素直に読めば、生活保護に投じられる年間の国費2兆8千億円を、4分の1以上カットすることになる。不正受給への厳格な対処でどうにかなるレベルの額ではない。

 生活保護が増えているといっても、絶対数では60歳以上が過半数を占める。自民は「給付水準の原則1割カット」を掲げるが、仕事につくのが難しい年齢層の人たちをどうするか。
 
給付カットは、生活保護を受けず、懸命に働いてぎりぎりの生活を送る人々にも影響することにも思いを巡らしたい。

 就学援助や国民健康保険の窓口負担の減免といった基準も、生活保護と連動して厳しくなる可能性が高いからだ。

 雇用では、維新が「市場メカニズムを重視した最低賃金制度への改革」を主張する(当初は「最低賃金制の廃止」)。

 雇用創出が目的だが、どんな仕事が生まれるだろう。かつて外国人研修生は最初の1年間、最低賃金制の対象外で、低賃金・単純労働が横行した。

 あわせて掲げる「税による最低所得保障」で、どこまで賃金を補えるだろうか。

 維新と同じく競争を重視しながら、最低賃金の段階的なアップを求めるみんなの党と比べるのも参考になろう。

 一方、民主、未来、公明、共産、社民の各党は濃淡はあれ、共助や公助を重視する。

 ただ、社会保障は手厚く、負担は小さくという図式は成り立たないのに、魔法の杖でもあるかのような公約が目立つ。

 手厚い給付には負担増が避けられないと、有権者自ら公約を読み替えて、その社会をイメージしてはどうだろう。

 自分たちのくらしが政治でどう変わるのか。有権者の想像力も、また問われている。

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