東京新聞 2014年3月21日
今世紀末の日本は洪水の被害額が二十世紀末の三倍以上になる。砂浜も85%が消える−。地球温暖化の影響だ。環境省の研究チームが発表した報告書が示す、切実な危機をあらためて認識しよう。
われわれが暮らす環境は、著しく悪化の一途をたどっているようだ。各大学や研究機関が集まり、コンピューターモデルによる気候変動予測を用い、二十世紀末と比べて、分野ごとにどんな影響が出るか計算した。
現在のペースのまま、温室効果ガスの濃度が上がり続けると、年平均気温は三・五〜六・四度も上昇するという。気温が大きく上がれば、身の回りの世界も生活も大きく変わる。
例えば、今世紀半ばには暑さで脱水症などを起こし、死亡する人が二倍以上になる。ヒトスジシマカと呼ばれる、デング熱のウイルスを媒介する昆虫の分布域が拡大する。人の生命や健康に悪影響を及ぼすことになるわけだ。
強い雨も頻繁に起きるため、洪水被害も起きる。金額に置き換えると、今世紀末には約六千八百億円の損失になるという。海面も約六十センチ上昇するらしい。
高山に生えるハイマツは約五万平方キロあるが、百分の一の約五百平方キロにまで収縮してしまう。何しろ亜熱帯の果樹が首都圏で栽培できるというのだから、農業への打撃もまた大きい。
研究チームの報告書は、予測される未来を描いているが、警鐘を鳴らしているのは、現在のわれわれに対してである。「温室効果ガス排出の抑制が必要だ」というのが強いメッセージだ。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第五次評価報告書でも、温暖化の原因は人間活動が原因である可能性が「極めて高い(95%以上)」としている。
人間活動のあり方が、人間の暮らしに跳ね返る。つまり、人間の活動が地球の環境を悪化させてしまうならば、人間の努力によって、その制御も可能なはずだ。まず、その視座に立つべきである。
省エネなどの取り組みだけでない。温暖化と表裏一体のエネルギー政策も転換せねばなるまい。事故が起きれば深刻な環境破壊を起こす原発に頼るのではなく、CO2を排出しない再生可能エネルギーの道を切り開いていくべきだ。
温暖化問題は世界規模で手を携えなければ克服できない。人類の未来のために、人類の英知を結集すべき重大な岐路にある。