琉球新報社説 過労死防止法案 労働行政の機能取り戻せ

琉球新報 2014年3月21日

 自民党雇用問題調査会のワーキングチームが、過労死や過労自殺を防止するための大綱を作ることを柱とした法律の骨格案をまとめた。国の責務で社会から過労死や過労自殺をなくしていくことを、理念として示すことが狙いだ。

 過酷な勤務を強いる「ブラック企業」が社会問題化するなど労働環境が悪化する中で、国として過労死や過労自殺の防止策に取り組む姿勢を明確にすることは評価したい。

 問題は理念止まりにせずに、いかに実効性ある中身にするかだ。

 骨格案は国の対策として、過労死などの実態の調査研究や相談体制の整備、民間団体の活動への支援などを盛り込んでいる。だが、長時間労働などの規制や罰則などには踏み込んでいない。

 過重労働で子や配偶者を失った遺族や支援者は、事業主が従業員の健康維持に責任を持つとの内容を法律に盛り込むことを求めている。企業側の責任をより明確化し対策強化を促すことは重要だ。

 法整備をめぐっては超党派の国会議員連盟も国会に法案を提出している。遺族らの意向も十分に踏まえて協議を急ぎ、社会動向に見合う法制度を確立すべきだ。

 厚生労働省の集計によると、2012年度に全国で、過労自殺(未遂を含む)で労災認定を受けたのは過去最多の93人だ。

 しかし、国が把握する数字は実態を反映していないとの指摘は強い。過重過酷な労働環境下で、過労死や過労自殺の瀬戸際にいる労働者は相当いるとみられる。

 厚労省の調査では、昨年9月に「ブラック企業」の情報を基に5111社を監督した結果、8割の企業で長時間労働や賃金不払いなどの法令違反が確認された。

 厚労省は是正勧告に応じない企業は労働基準法違反容疑などで送検し社名も公表する方針だが、過労死、過労自殺防止策として監督業務に一層の実効性を持たす権限強化も検討すべきだろう。

 労働者の権利保護は二の次にして規制緩和が進み、非正規雇用が全体の4割を占めるなど、労働環境はいびつさを増している。過労死や過労自殺の増加もこれを反映したものだ。

 過労死をめぐっては昨年5月、国連の社会権規約委員会も日本政府に是正勧告をしている。労働者の権利保護という労働行政本来の機能を取り戻し、過労死、過労自殺の防止に取り組むべきだ。

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