南日本新聞社説 [残業代ゼロ] 労働者保護に逆行する

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南日本新聞 2014/04/30

 安倍晋三首相は、政府の経済財政諮問会議と産業競争力会議との合同会議で、労働時間規制の緩和を検討するよう指示した。

 労働基準法は労働時間の原則を1日8時間、週40時間と定め、超える場合は残業代などの支払いを義務づけている。安倍首相はこの規制を外し、「時間ではなく成果で評価される働き方」を目指す考えだ。

 労働人口が縮小するなか、時間に縛られず柔軟に働ける環境づくりは必要だろう。しかし、成果を基本に賃金を決める仕組みは、長時間労働を助長しかねず、労働者保護に逆行する恐れがある。慎重な議論を求めたい。

 合同会議で民間議員が労働時間を自己裁量とする代わりに、残業代などを払わなくて済む「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入を提言した。安倍首相の指示はこれを念頭に置いたとみられる。

 提言は、年収が1000万円以上で高度な職業能力を持つ労働者を対象にした方式と、国が年間労働時間の上限を示し、労使合意で対象職種を決める2種類である。上級管理職などに限っている現行の例外をさらに広げる内容だ。

 ただ、この制度は第1次安倍政権のときに検討されたが、導入は見送られた経緯がある。健康被害を招くと労組などの反発が強かったからだ。

 現状をみると、長時間労働による過労死や過労自殺する事例は後を絶たない。2012年度は脳・心臓疾患などで亡くなった123人が労災認定され、未遂を含め過労自殺とされた人は93人に上る。労災申請に至らないケースも少なくない。

 昨年は社員に過酷な労働を強いるブラック企業が社会問題化するなど、不当な時間外労働や賃金未払いなどが横行しているのが実態である。こうした問題を解消できないまま、労働時間の規制緩和を進めるのは順序が逆だ。

 連合の古賀伸明会長はメーデー中央大会で「働く者の犠牲の上に立つ成長戦略は許されない」と、安倍政権が進める雇用改革を批判した。労働時間規制は命と健康を守る重要な制度であり、懸念は当然である。

 安倍政権は企業の派遣労働者受け入れ期間の上限廃止や、外国人労働者の受け入れ拡大など雇用の規制緩和策を打ち出している。今回の見直しも6月に改定する成長戦略に反映させる考えだ。

 気がかりなのは、いずれも経営者側の意向に沿った改革であることだ。労働者の声にも耳を傾け、安心して働ける環境整備を目指してほしい。

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