東京新聞 2014年5月26日
流通や外食産業などで深刻化する人手不足は、安い労働力に依存してきた経営の転換を迫るものだ。若者らが働きたいと思える環境、働く人にきちんとした対価を払う真(ま)っ当(とう)な経営を目指すべきだ。
景気の回復傾向を背景に人手不足への懸念が強まっている。東日本大震災からの復興や東京五輪に向けた労働需要が急拡大する建設業界に続き、顕著になっているのは流通業や外食産業である。
居酒屋チェーン「和民」は人手不足を理由に年度内に六十店舗の閉店を決め、牛丼大手「すき家」は百店以上が休業に追い込まれた。もともと慢性的な人手不足に悩んできた介護や医療の関連業界では、他の業種への人材流出で不足感が一層増している。
人材確保の巧拙が経営を大きく左右するのである。流通・小売り業界で好調だったユニクロは、これまでパート待遇だった社員を大量に限定正社員化することを決めた。処遇改善により人材の「囲い込み」を図る狙いである。
日本経済が二十年近くに及ぶデフレの中、小売りや外食などサービス産業の多くは低廉で使いやすいパートやアルバイトら非正規労働を活用してきた。一円の安さを競う価格競争のために人件費を切り詰めるビジネスモデルである。その究極の姿は、低賃金で若者らを使い捨てにするブラック企業である。
働き口が少ないデフレ不況期にはそんな劣悪な雇用モデルでも通用する余地はあったが、雇用環境が好転すれば働き手がいち早くそっぽを向く職場である。人を人とも思わないような企業に将来はないことが明白になった。
少子高齢化の進展で今後、生産年齢人口(十五〜六十四歳)は一段と減っていく。さまざまな業種で人手不足が企業経営を圧迫しかねない。
そうであれば経営者が目指すべきは、使い捨ての労働などではなく、きちんと教育に力を入れた質の高い労働力である。価格ばかりを競うことなく、魅力的な商品や消費者ニーズを酌んだサービスを適切な価格で提供する。そんな当たり前の経営である。
もちろん、自力での処遇改善や人材確保が容易でない企業はあろう。長期に染み付いたデフレマインドの払拭(ふっしょく)や経営の転換は大きな困難を伴うが、情報技術(IT)や女性らの積極的な活用、省力化のための設備投資などで労働環境を改善していく好機であるととらえたい。