佐賀新聞 2014年08月02日
厚生労働省の中央最低賃金審議会が、2014年度の地域別最低賃金(時給)の引き上げ額の「目安」を決めた。全国平均は16円増の780円で、佐賀県は13円増の677円とした。目安通りに引き上げれば、全国平均は3年連続の2桁増になる。それでも佐賀県は沖縄など8県と並び最も低い水準であることに変わりはない。
最低賃金はすべての労働者に適用され、これより低いのは違法で、悪質な場合は罰金が科されることもある。賃金が低くなりすぎることや人件費を犠牲にした企業間の競争を防いでいる。
改定は働く人の4割近くを占めるパートなど非正規労働者らの収入に直結する。多くが労働組合に頼れない弱い立場の労働者で、改定は非正規労働者にとって「春闘」と同じ意味合いを持つ。
安倍政権は、景気回復に伴い改善した企業収益を賃金上昇や雇用拡大に結びつけ、それが消費や投資に回る「経済の好循環」の実現を目指している。政府は春闘では政労使会議を設け、賃上げを要請し、大企業などが応えた。今回の最低賃金の改定は、働く人全体に景気回復の恩恵を行き渡らせられるかどうかを測るバロメーターでもある。
有効求人倍率が22年ぶりの高水準になるなど雇用情勢の改善を背景に、引き上げにつながった。だが景気回復を実感するレベルとは到底言えない。
総務省によると、消費者物価指数の前年同月と比べた上昇率は4月の消費税増税の影響で、6月まで3カ月連続で3%を超えた。目安通りに引き上げても最低賃金の上昇率は全国平均2%程度にとどまり、追いつかない。
今回示された目安を基に、協議は都道府県ごとの地方審議会に移る。地域の経済情勢や物価動向を勘案して決定し、10月をめどに適用される。
佐賀県の審議会は、一昨年は7円、昨年は11円引き上げた。中央審議会が示した目安よりもそれぞれ3円、1円上乗せしてきた。今回も目安以上を期待したい。
仮に今回、目安と同額の13円増額した場合、佐賀県は677円で、東京都の888円と比べて211円、福岡県の726円と比べて49円の開きがある。地域格差は縮まるどころか、拡大する方向にある。若者の地方離れには都市部との賃金格差も一因にあり、人口流出の歯止めとしての視点も忘れないでいてほしい。
以前であれば、最低賃金で働くケースは主婦がパートタイムで働き、家計を補う場合が多かった。今では家計の中心となっている人も少なくない。引き上げは、そうした家庭が陥っている「子どもの貧困」に救いの手を差しのべることにもなる。
とは言っても、都市部の大企業と違い、地方の中小企業は業績回復の足取りが重い。経済規模が縮小する中では、企業が賃上げ分を増収で補うのは難しく、経営の重い負担になる場合もある。それでも地域経済の歯車を動かす一手になる。企業の賃上げよりも、すべての企業に関わる最低賃金の引き上げは地域の経済と生活の底上げにつながるはずだ。
目安では暮らし向きを改善させる水準とは到底言えない。少しでも積み上げられることを期待したい。(宮崎勝)