北海道新聞 2016/07/08
http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/opinion/editorial/2-0066955.html
参院選では与野党がそろって雇用・労働政策を重要公約に掲げている。
「同一労働同一賃金の実現」「最低賃金の引き上げ」「長時間労働の是正」など、似通った項目が並ぶ。
これまで野党側が掲げてきた同一労働同一賃金などを、与党側も主張し始めたことが大きい。このため「争点が見えにくい」などの指摘も出ている。
肝心なのは、こうした公約を「看板」で終わらせず、中身も伴わせることだ。
与党は公約に掲げる以上、責任をもって遂行しなければならない。野党も言いっ放しで済ませず、実現への道筋をきちんと示す必要がある。
安倍晋三首相は1月の施政方針演説で、「同一労働同一賃金の実現」などに言及した。
背景には、政府の経済政策「アベノミクス」で大企業は潤ったものの、その果実が国民全体に行き渡っていない現実がある。
実質賃金は5年連続でマイナスだ。アベノミクスを推進するためにも、消費の活発化につながる賃金の底上げなどが欠かせないということなのだろう。
政府や与党がこうした改革に乗り出すことは、方向性として間違っていない。
問題は、これまでの雇用政策との整合性だ。
昨秋には、最長3年だった派遣労働者の受け入れ期間制限をなくす改正労働者派遣法が成立した。
一部労働者の残業時間をなくす労働基準法改正案も、国会で継続審議になっている。
こうした労働分野の規制緩和策と、公約に掲げた政策には距離がある。国民が納得できるような説明を求めたい。
野党各党は、与党の雇用政策を「アベノミクスの失敗隠し」などと批判する。
ただ、アベノミクスの成否という入り口論にとどまっているため、議論に深みが出ない。これでは国民の支持は広がらないだろう。
最低賃金については、多くの政党が時給千円や1500円への引き上げを唱えている。
ならば、与野党を超えて実現の道筋を探るべきだ。中小零細企業には大幅な引き上げは経営を圧迫するとの危惧もある。現実的な折り合いをつけなければなるまい。
雇用・労働政策は少子化や社会保障など、この国の将来を左右する重要課題と深く関わっている。正面から議論を戦わせてほしい。