読売社説: 大学への脅迫文 言論封じを狙う卑劣な行為だ

読売新聞 2014年10月3日

 脅迫で言論を封じ込めようとする行為を看過することはできない。

 かつて慰安婦報道にかかわった元朝日新聞記者が教員として勤務する帝塚山学院大学(大阪府)と北星学園大学(札幌市)に、2人の退職を要求する脅迫文が送りつけられた。

 「辞めさせなければ、学生に痛い目に遭ってもらう」「クギを入れたガス爆弾を爆発させる」

 脅迫文には、そうした文言が書かれ、クギが同封されたものもあった。元記者を攻撃するだけでなく、学生にも危害を加えると脅す行為は、極めて卑劣だ。

 警察は威力業務妨害容疑で捜査を始めた。犯人の摘発に全力を挙げてもらいたい。

 帝塚山学院大教授だった元記者は、韓国で女性を強制連行したと虚偽の証言をした吉田清治氏(故人)に関する記事を書いた。

 朝日新聞が8月に自社の慰安婦報道の検証記事を掲載して以降、大学側に「教授を辞めさせないのか」といった問い合わせが相次いだ。元記者は脅迫文が届いた9月13日付で辞職した。

 北星学園大で非常勤講師を務める元記者は、韓国人元慰安婦の証言を他紙に先駆けて報道した。

 ネット上では、元記者の家族とされる名前を挙げて、中傷する書き込みすら見られる。報道には何の関係もない家族をも攻撃の対象にしている。言語道断だ。

 朝日新聞の一連の慰安婦報道は、国による強制連行があった、という誤解を世界に広めた。

 日本の国益を著しく害し、韓国側の反日感情をあおった責任は重大である。

 「吉田証言」については、1992年頃から、内容に疑義が呈されていた。それにもかかわらず、朝日は見直さず、今年8月にようやく記事を取り消した。

 報道機関に対する信頼を大きく損ねたことは間違いない。

 だが、朝日の報道が意に沿わないからといって、脅迫行為に訴えることが許されるはずもない。言論に問題があった場合は、あくまで言論で反論していくべきだ。

 読売新聞は、紙面で朝日の慰安婦報道を分析し、いかに甚大な影響を及ぼしたかを示した。誤報の背景を探り、徹底検証することが、傷つけられた日本の名誉を回復し、報道機関の信頼を取り戻すためには必要だと考えるからだ。

 言論の自由は、民主主義社会が成り立つための基本原則である。いかなる場合にも、この原則は堅持されなければならない。

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