東京新聞 2017年9月9日 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201709/CK2017090902000146.html
厚生労働省は8日の労働政策審議会に、収入が高い一部専門職を労働時間規制から外す「残業代ゼロ」制度(高度プロフェッショナル制度)創設を柱とする労働基準法改正案などを一つにした「働き方改革」関連の一括法案要綱を示した。来週にも了承を得て、今月下旬に召集見通しの臨時国会に提出したい考え。労働組合や過労死遺族らが「過労死促進法」「定額働かせ放題」などと批判してきた見直しが多く盛り込まれた。野党の反発も必至だ。 (編集委員・上坂修子)
労政審で、労働側が最も抵抗してきたのが「残業代ゼロ」制度創設と裁量労働制の拡大。厚労省は要綱に盛り込み、二〇一九年四月の施行を目指す。
労基法は労働時間を「一日八時間」「週四十時間」と規定。労使協定を結べばこれを超えて働かせられるが、割増賃金を払わなければならない。「残業代ゼロ」制度は、高収入の一部専門職を規制の枠外とする。企業は残業代支払い義務を免除され、働く人は成果を出すまで過重労働を強いられかねないと懸念される。
厚労省は年収千七十五万円以上の金融ディーラーなどが対象と説明するが、具体的には法成立後に省令で定める。なし崩しに将来、対象が拡大しかねない。
働く人の健康を守る対策を強化するとして連合が求めた年百四日以上の休日確保義務は盛り込まれたが、日本労働弁護団の棗(なつめ)一郎幹事長は「この程度では過労死は防げない」と言う。
裁量労働制も同じ問題点が指摘される。
仕事の進め方や出退勤を労働者の裁量に委ね、労使で定めた「みなし労働時間」分だけ賃金を支払う制度で、深夜や休日の労働以外、追加の残業代は払われない。
職種や業務内容によって対象が限定されているが、法案要綱は、企画や立案、調査を担う営業職などにも拡大するとした。総務省の労働力調査(今年七月時点)によると、営業職に就く人は約三百六十万人。
情報産業労連がITエンジニアを対象に実施した調査(一五年四〜五月時点)によると、繁忙期の労働時間が一日「十三時間以上」の割合は、裁量労働制の適用者が28%。そうでない人よりも10ポイント高かった。法案が成立すれば、長時間労働を強いられる労働者がさらに増える恐れがある。
これらの見直しは、企業の競争力を強化する成長戦略の目玉として、政府が一四年に打ち出した。安倍晋三首相が掲げた「世界で一番、企業が活躍しやすい国」は経営側の視点。労政審でも経営側は「企業の競争力、生産性向上の観点から見直しは必要」と訴えた。
労働問題に詳しい森岡孝二関西大名誉教授は「一番の問題は労基法の根幹の残業代支払い義務を免除すること。過労死をなくすという流れに逆行する。労基法の歴史で過去最大の改悪」と指摘している。