「働き方改革」に逆行する #霞が関のリアル
5月29日(水)午後6時から10時まで「霞が関公務員相談ダイヤル」を実施します。
この「霞が関公務員相談ダイヤル」と並行して、「霞が関不夜城ウオッチング」に取り組み、各省庁の実態をツイッターで発信します。
こうした取り組みに先立ち、霞が関で働く国家公務員のみなさんに集まっていただいて座談会を開催しました。(司会=井上伸)
井上 みなさん、お忙しいなかお集まりいただき、ありがとうございます。これまで何度か座談会を開催していますが、今回の大きな違いは、この4月1日から霞が関でも「働き方改革」が実施されていることです。すでに1カ月以上経過していますが、霞が関の「働き方」は改善されているでしょうか?
A 私の職場では、「働き方改革」を推進するための担当官なるものが生まれました。その担当官が職員みんなに「早く帰ろうね」と声かけしたり、残業時間が多い順番に職員の個人名でワーストランキングを発表したりして、組織全体としての問題というより職員個人の自己責任のような形で「長時間残業する職員が悪い」とばかりに職員個人の問題に矮小化して追及するようになっています。
そうやって個人の問題のすり替えて、形だけ平日の残業をなくそうとすると、私はみんな休日出勤して仕事するようになるのでは?と思っていました。そして実際、本当にほぼ全員が休日出勤しています。土日や祝日の休日だと平日よりはるかに電話がかかってこないし静かに集中して仕事ができるということもあり、みんな出勤しています。休日も職場の風景が全く変わらないのです。
それで、休日出勤で仕事をしても職員は申請しませんから単なるただ働きです。うちの職場では、「働き方改革」によって平日の残業をなくせと言われて休日のただ働きが横行しているというのが実際です。
B 私の職場では夜に残業をするといろいろ注意されるので、始発電車で早朝に仕事をする職員が増えています。早朝に仕事をしている職員は、自分の能力がないから定時で仕事がこなせないと思い込んでいて早朝仕事分を残業時間として申請していません。なかには早朝は早く来てるから「残業」じゃないなどと、非常勤職員も一緒に早朝仕事のただ働きをさせている部署もあります。
井上 ひどいですね。「働き方改革」によって霞が関でも4月1日から、?一般の職員は1カ月の残業が45時間以下(1年360時間以下)、?「他律的な業務の比重の高い部署」で仕事する職員は1カ月の残業が100時間未満(2〜6カ月平均で80時間以下、1年720時間以下)、?1カ月で100時間以上の残業を行った職員は医師による指導を行うこと(健康確保措置)、?管理職も含む残業時間の適切な把握、などが人事院規則として規定されいるのに、実効性が全くないような状況ですね。
C その「働き方改革」が実施された4月1日以降も私の職場はタイムカードも何もなくて、出勤時間も残業時間も全く把握されていません。表向きはきょうは午後9時まで残業を申請したとなるのだけど、だいたいは申請した時間を大幅にオーバーする。しかし、そもそも残業時間が把握されていないから何の「働き方改革」にもなっていないという職場実態です。
D 私の職場では連続して職員の自殺者が出たことがあって、労働組合としてこの問題を改善するために当局を様々な形で追及してきました。その結果、在庁時間管理は厳しくやるようになりました。エクセルシートで登庁時間と退庁時間で管理しているのと、各職員のパソコンのログイン時間とログオフ時間でも管理しています。
残業時間と言わずに在庁時間としているのは問題がありますが、課ごとの平均の在庁時間を月一回ランキングにして発表しています。私の課は平均の退庁時間がこの4月で21時でした。退庁時間が20時を超えると改善計画というのを出す必要があるのですが、その残業改善計画をつくるのも職員が残業してつくるという本末転倒の実態も起こっています。
E 法改正に携わっていた若い職員が過労死しました。職場で寝泊まりしていて、その法改正の仕事が終わった後に気持ちが切れたことも一つの要因になってしまったようです。そもそも、国会対応で「他律的な業務の比重の高い部署」に、全職員の97%がされていて、1カ月の残業が100時間まで最初から認められているのだから、「働き方」は全く改善されないし、過労死や過労自殺もなくなりようがありません。
F 国公労連が昨年の6月に実施した「セクハラ・パワハラ実態調査」だと、霞が関職場でのパワハラ被害は34%(1万1,500人)、セクハラ被害は21%(7,100人)にのぼっていて、いま国会では実効性がほとんどないハラスメント法案が審議されていますが、霞が関職場のパワハラも相変わらずです。
パワハラの常習犯になっているいわゆるクラッシャー上司、クラッシャーキャリア官僚が、部下のキャリア職員をパワハラで病休に追い込んだと思ったら今度はノンキャリ職員も次々とパワハラで病休に追い込みました。それで人手が足りなくなったと言って、今度は残った職員に休日出勤も強制するという地獄のようなブラックな実態も広がっています。人事院は一刻も早く実効あるハラスメント対策を具体化すべきです。
G 私は地方自治体から霞が関に出向してきたのですが、私が着任してからその部署に関連する大きな事件が起こって毎日終電の日々が続きました。日中は、地方自治体からの問い合わせや国民からの問い合わせへの対応で大変になってしまったので、定時を過ぎてからが本来業務をするほかなく毎日終電で、極度のストレスで白血球が異常値になってしまいました。
今までやったこともない国会対応や、これまで霞が関からいろいろな文書を受ける側だったのに突然文書を出す側になってこれもやったこともないの突然やれと言われて、しかもそのやり方を教えてもらえない。前任者が異動してすでにいないというのと、ほかの職員も自分の仕事だけで忙しいので教える余裕がないのとそもそもその仕事を誰も知らないというので、自分で前任者が残した資料等を調べるしかなくて本当に大変です。
H 地方自治体や地方出先から霞が関に出向してくる職員は優秀な人が多いのに、きちんとした前任者からの引き継ぎもなく今までやったこともない国会対応などの仕事を、そのやり方をどうすればいいのかも教えられず突然やるしかない状況に置かれています。とてもストレスフルなので地方から出向した職員は霞が関で1年間仕事すると2割ほどがメンタル疾患での病休に追い込まれて、さらに2割が仕事を辞めていっています。
E 地方から出向してきた職員が土日もなくほとんど家に帰れないような仕事が続いていたのですが、職員本人はタフらしく今のところその仕事を続けているのですが、一緒に上京した奥さんがメンタル疾患になってしまいました。突然上京して官舎に住むことになった奥さんは全く知人もいないところで夫も家に帰って来ないということで話し相手もおらずメンタル疾患になってしまったとのことです。
NHKで、「厚労省で妊婦が深夜3時まで残業!」という報道がありましたが、霞が関で働く女性職員についても育児休業を強制的に切り上げさせられたり、霞が関職場では「働き方改革」などどこ吹く風という感じです。それと、森友問題と加計問題が起こってから、公文書管理にあたって電子決済を流す前に紙で流してOKになると電子決済に回すという二度手間の仕事の流れにもなっていて余計な仕事が増えています。二度手間の公文書管理で残業が増えるなどという不合理な仕事のやり方は今すぐやめるべきです。
B 公文書管理にあたって私の職場ではそういう二度手間にはなっていませんが、森友・加計問題以降、基本的に文書やメモを長い期間は残さないというような流れになってしまっています。職員個人のメールについても長い期間は基本的に残さないようなことになっていて、何か問題が起こって問い合わせがあった場合にも「すでに破棄してありません」と答えるような状況です。しかし現場の職員は自分の仕事を進めるために必要な文書やメールは残しているわけで全くおかしなことになっています。
E 私の職場もメールは表向きはどんどん破棄していることになっています。7日で廃棄と対外的には言い切っていて、何か聞かれたら破棄しましたと言え、とにかく文書は残すな、となっています。
A そうした公文書管理もひどいですが、首相官邸と霞が関とのバランスが崩れてしまっています。官邸からのトップダウンの仕事ばかりが増えていて、国民からの行政ニーズを反映していくというボトムアップの仕事になっていません。内閣人事局が2014年5月30日に発足してキャリア官僚の人事を首相官邸が握ってから各省庁は他省庁と調整して仕事を進めるのではなく、官邸と直接やりとりしてとにかく官邸のおぼえをよくすることしかやっていない感じです。
そして官邸のおぼえがよくなった省庁のキャリア官僚は出世できることになっています。しかし、今の安倍政権が未来永劫続くわけもないわけで、常軌を逸しているような安倍政権べったりの省庁はいったい何を考えているのかとも思います。
E 先日、20代の若手キャリア官僚の人たちに会って話したのですが、何人かは、「官邸が霞が関の職員を下僕のように扱うようでは日本はダメになる。こんな仕事を30代半ばまでやらされて海外留学して40歳ちょっとになるようなキャリアを積むのはイヤなので国家公務員はやめたいと思っている」と言っていました。
キャリア官僚は仕事で海外留学した後に民間企業に転職するとその留学費は自己負担になるのだけど、最近は民間企業が留学費も払ってキャリア官僚に転職をうながすケースも増えていて、優秀なキャリア官僚の民間企業への流出も止まらないようです。
B 内閣人事局ができて首相官邸が人事を握ってキャリア官僚を下僕扱いしていることも大きな問題ですが、同時に「政治主導」の名で政治任用ポストの政務官など政治家が霞が関の現場の仕事にもやたらからんできて、その政務官への対応で職員の仕事が増えています。たとえば、何かの施策にからんで突然、思いつきのように税務官が現場に視察に行くとなったりして、わかがままな政務官の場合だと視察で宿泊するホテルに自分の好みのものを揃えないと不機嫌になったりしてやたら仕事を進めづらくなるわけです。
それこそ問題になった日本ボクシング連盟の山根会長のような事態で、現場の職員はいい迷惑です。そんな政治家のわがままに振り回されて長時間労働になってしまうというのは、そもそも国家公務員は「国民全体の奉仕者」なのに、現実は「一部のわがままな政治家の下僕」にさせられてしまっているわけで、客観的にも国家的な損失になっている事態だと思います。
H 若手職員はそうした不合理な働き方に対して敏感だし見切りが早いので辞めていっていますね。
井上 それから、あわせて指摘しておくと、統計不正の大きな背景には「官邸による国家公務員の下僕化」とともに、この15年間で国の統計職員を7割も削減したことがあるし、国際比較でもフランスの6分の1と統計職員数が以上に少ないという問題があります。
B 国会対応で霞が関の職員はずっと大変な長時間労働を強いられているわけですが、今回この座談会にあたって若干整理して考えてみました。まず国会対応の答弁書ができるまでの概要は以下に整理できます。
B 国会対応でなぜ長時間過密労働が生まれるかと言うと、以下にあるように、質問通告から答弁までに行う作業量は物理的に同じなわけで、この仕事にかわる職員数が同じなら質問通告から答弁までの時間が短くなればなるほど職員は家に帰る時間や寝る時間を削ってそこにあてなければ間に合わないということです。
なので、質問通告時間をきちんと守るシステムにして作業時間を確保するか、職員数を大幅に増やすかしかありません。たまに、「質問通告時間をきちんと守らない野党が悪い」などと言う人がいますが、これは国会運営全体、委員会運営全体の歪みの中で生まれているわけですから「野党だけが悪い」という問題ではありません。
B 国会対応には質問主意書への対応もあります。以下にあるように、質問主意書も国会質問への対応と同様で、時間と職員数の問題になります。基本的に質問主意書に対して一週間で答弁書を作成しなければならないことになっているわけですが、この答弁書作成で多くの職員が徹夜したりする長時間労働に現実問題としてなっているわけですから、職員数を増やすか、答弁書作成時間をたとえば二週間にのばすなど時間の確保が必要です。