実習生の不当労働報道で揺れる今治タオル
藤中 潤 日経ビジネス記者 2019年6月27日
「今治タオルは買わない」「もう使わない」――。
吸水性や心地よい肌触りが人気の「今治タオル」が逆風にさらされている。
インターネットやSNSで批判や不買運動とも言える書き込みが多くなされている。端緒となったのは、下請け企業での外国人技能実習生の劣悪とも言える実習環境を取り上げたNHKの番組。タオル製造の下請け企業で実習生らが朝方まで働かされている現状や、渡航時に背負った借金の返済が低賃金のため滞っている現状が紹介された。
今治タオルブランドの商品を手掛ける織布メーカーなど104社が加盟する今治タオル工業組合によると、放送で取り上げられた会社は組合に所属していない。とはいえ、今治タオルの生産は、基本的に複数の下請け企業との分業で行われており、同社も組合企業の下請けとして今治タオルの生産に関わっていた可能性はあるという。組合は放送を受けて「(組合にも)社会的責任及び道義的な責任がある」とし、技能実習生の労働環境改善などに取り組む方針を示している。
だが、今回の報道による影響は、問題のあったとされる企業だけでなく、今治タオルの生産者全体にすでに出始めており、稼ぎ時の1つであるお中元商戦を迎えている中で不安を口にする業者は少なくない。今治タオルの製造・販売を手掛けるある業者は取引先や消費者から問い合わせが多数あるとし「まっとうな会社もある中で、今治タオルそのものが批判の対象になっておりつらい」「ブランドそのものの価値が毀損され続ける致命的な状況に陥りかねない」と危機感をあらわにする。報道のあった企業に建物を貸し出していた別のタオル会社には抗議や無言の電話が相次いでいるという。
「今治の基幹産業は造船とタオルだが、少子化や都会への若手人材の流出で人手不足が続いている。うちはまだだが、タオル会社で技能実習制度を利用している企業は少なくないようだ」と話すのは別のタオル会社の経営者。今治タオルが全国的なブランドに成長した背景には、中小企業が技能実習生の力も借りて成し遂げたという実態もあるようだ。
ただ、実習制度を巡っては今回の放送のように過酷な労働実態がたびたび明るみに出ているほか、失踪事案も相次いでいる。そもそも制度自体に対して「日本から海外への技術移転という『国際貢献』を理念に始められたもの。労働力不足の補完という位置づけで利用されている現状は、制度が形骸化しているとしか言えない」(国士舘大・鈴木江理子教授)との指摘さえある。制度そのものの在り方が議論される中、今治タオルに限らず技能実習生に頼った生産体制は見直しを迫られる可能性がある。
人口減少が運命づけられている日本社会。今年4月には改正出入国管理法が施行され新たな在留資格が創設されるなど、「実習生」ではなく「労働者」として国外からの人材を確保する機運も高まる。だが、その陰で不当な労働者の扱いが横行すればブランドの毀損につながるだけでなく、外国人から働き口として敬遠される可能性さえある。受け入れ側がいかに高いモラルを維持していくか。今治タオルが直面する問題は、どの企業にとっても無縁なものではない。
(写真=PIXTA)