橋本愛喜「なぜ夜間の高速には路肩などに停車するトラックが多いのか? ETC深夜割引がもたらす弊害とは」
2019年08月06日 08時31分 ハーバー・ビジネス・オンライン
なぜ夜間の高速には路肩などに停車するトラックが多いのか? ETC深夜割引がもたらす弊害とは
深夜のサーヒ?スエリアて?休憩するトラック
◆お得なはずの高速の深夜割引、運送業界は大歓迎ではない!?
「トラックドライバーが一般ドライバーに知っておいてほしい“トラックの裏事情”」をテーマに紹介している本シリーズ。
これまでに、一般ドライバーからは一見すると「マナー違反だ」と思われてしまうトラックドライバーの行為の理由を紹介してきたが、今回は「高速道路の深夜割引がもたらすトラックの迷惑駐車と長時間労働」について紹介したい。
高速道路の深夜割引は、自動料金収受システム(ETC)を利用したクルマが、午前0時から午前4時までの時間帯に高速道路を走行した場合、高速料金が3割引になるサービスだ。無論トラックだけではなく、他車両も利用できる。
例えば、東京から大阪(吹田)まででかかる大型自動車の高速通常料金は、約17,500円。これが深夜割引を利用すると約12,200円となり、5,000円以上高速代が浮く。
「配送料無料」の時流や、競合他社との価格競争に対応するべく、安い運賃が定着化する昨今の運送業界。
それゆえ、毎日朝イチで遠方の取引先へ荷物を届ける長距離トラックにとっては、この割引サービスの存在は大変に大きい。中には同サービスを利用し、毎月数百万円以上の高速代を浮かせる業者もいる。
また、この割引を受けないと、収入に直接響くドライバーも存在する。会社との雇用形態によっては、毎月の給料が、ドライバーの売上から高速代を引いた金額からの歩合だったり、深夜割引で浮かせた分が給料に反映されたり、さらには、荷主から高速代が出ず自腹を切らねばならないケースもあるからだ。
しかし、これほど利益や収入に貢献する同サービスであるにも関わらず、業界内からの声は「有り難い」というポジティブなものだけに限らない。むしろ、「現在の割引制度こそが、運送業界の抱える大きな問題の要因になっている」と、改善や変更を望む声が多く挙がっているのである。
同サービスで生じる運送業界の問題とは、以下の通りだ。
◆高速の深夜割引で起きる「弊害」とは
1.迷惑・違法駐車
現在の深夜割引は、先述通り午前0時から4時までだ。この時間帯に、ほんの僅かでも高速道路内にいれば、割引が適用される。
つまり、午後11時59分に高速を出るのと午前0時を回って出るのとでは、先の例のような大きな差額が生じるのだ。そのため、ドライバーに「0時まで高速を出るな」と指示している運送業者も少なくない。
こうした「0時までの高速内待機」で発生するのが、大型車の駐車マス不足だ。
平日夜の主要サービスエリアやパーキングエリア(SA・PA)に行くと、大型専用車のマスには、全国津々浦々のナンバープレートを引っ提げたトラックが、大きなタイヤを並べて駐車しており、空いているマスは、全くといっていいほど存在しない。
その結果、遅めに入って来たトラックは行き場を失い、本来駐車してはいけないところに、ダメだと思いながらも身を置いてしまう。
夜間、SA・PAの小型車エリアのマスや、SA・PA出口の本線合流に接する路肩、インターチェンジ出口手前などに、多くのトラックが停まっているのは、そのためだ。
◆せめて深夜割引が22時からなら……
2.改善基準告示違反と休息時間不足
不規則で長時間労働化することが多い運送業界には、「運送業界版の労働基準法」といわれる「改善基準」という規則がある。
「4時間走ったら30分休まねばならない」というルールは以前にも紹介したが、この他にも「1日(ないし2日間)に走れる時間」や、「翌日の仕事まで原則的に連続8時間の休息を取らねばならない」といったことなどが盛り込まれている。
しかし、長距離ドライバーによくある「朝イチ8時に取引先」という業務では、0時を待って高速を降り、取引先付近で休息しようとすると、この「8時間」が守れなくなるのだ。
そのため、
「せめて深夜割引が22時からであれば、高速を降りてから目的地付近で休息を取ろうとするドライバーが増え、SA・PAの夜間の混雑も幾分緩和されるのに」
と嘆くドライバーも多い。
これらで分かるように、トラックはむしろ、「走る」以上に「停める」ほうが難しく、ゆえに「最寄りのSA・PAに行っても停められないかもしれない」という不安は、彼らにとって相当のプレッシャーになる。
そんな精神的負担を回避すべく、中には、最寄りのSA・PAよりもかなり手前のSA・PAで妥協するドライバーもいるが、そうすればその分、起床時間が早くなって疲労が抜けないだけでなく、早朝の移動距離が長くなり、事故や渋滞の遭遇率も上がるため、延着(遅刻)の危険性も高くなるのだ。
◆深夜割引が長時間労働の原因に……
3.長時間労働
深夜割引がトラックにもたらすこととしてもう1つ大きいのが、「ドライバーの長時間労働」だ。
改善基準で定められた「8時間休息」と、「深夜割引適用時間」を逆算すると、不必要に早く出勤・出発し、途中で時間を潰さなければならないことが多くあるのである。
また、長距離ではなく、近場への配達で早朝から運行するトラックも、割引を利用するには午前4時までに高速道路に入っている必要があり、こちらも早めの出勤・出発が求められ、ドライバーはその後、やはりどこかで待機せねばならなくなる。
精神的により辛いのは、「戻り便」だろう。本来ならばもっと早く会社へ帰れるはずであるところ、0時をSA・PA内で待って高速を降りれば、やはり拘束時間は長くなる。
◆現場のドライバーたちは何を思う?
今回、SA・PAに停まっていたトラックドライバーや、SNS上でアンケートに協力してくれたドライバーに、この深夜割引に対して意見を求めたところ、
●深夜割引を利用するために、必要以上に早く出庫する。或いは、0時を待ってPA等で待機することは多々あります(指示されなくても、利用高速代が給料に影響する場合も多いので)。
●本来ならばもっと早く帰社できるところ、この割引の時間がくるまでサービスエリアで待つので、拘束時間は伸びるし、どこも無駄に混み合う。仕事も終わり、後は帰るだけなのに、ゴールを目前にして停まらなければならない時は、「何やってるんだろう」という気分になる。
●拘束時間が長い運転手をさらに拘束し、東名新東名上りのPA等休憩場所の深刻な不足に拍車を掛けている悪しき制度だと感じます。
●日本のライフラインを支えるトラックに関しては終日割引にしてもらいたい。それがトラッカーの拘束時間問題解決の近道にもなり、SA・PA問題も少なくなると思います。当社ドライバーもそろって同じ声を上げています。
といった返答があった。
トラックとて、好きであんな危険なところに停まっているわけではなく、悪気なく迷惑駐車しているわけでもない。顧客や消費者の要望に応え、安く早く運ぶ図体の大きい彼らには、居場所がないのだ。
「駐車違反をしてまで休むな」と言われるかもしれないが、「休息を取る」ことも、トラックにとっては道路交通法と同じく守るべき立派な規則だ。
こうしたトラックの駐車スペースの問題や、過酷な労働環境を改善するには、「全国的な大型自動車専用駐車スペースの拡大」、「荷主による到着時間の配慮」、「深夜割引の制度見直し」、そして「周囲の少しの理解」が必要になってくる。
【橋本愛喜】
フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。日本語教育やセミナーを通じて得た60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。