河北新報 社説 パワハラ指針/働く人の視点で見直し必要 (12/1)

社説 パワハラ指針/働く人の視点で見直し必要
https://www.kahoku.co.jp/editorial/20191201_01.html
河北新報 2019年12月01日日曜日

 企業や職場でのパワーハラスメントは、どんな行為が該当するのか。パワハラの判断基準を示した初の指針が、厚生労働省の労働政策審議会でまとまった。厚労省は一般からの意見を募り、年内にも正式に決定する。
ただし、指針の記述は不明確な表現が目立ち、企業が恣意(しい)的に解釈する懸念が拭えない。実効性のある指針となるよう、労働者の視点から不断の見直しが求められる。
 5月に成立した女性活躍・ハラスメント規制法は、パワハラ防止対策を企業などに義務付けた。大企業は2020年6月、中小企業には22年4月から適用される。
 規制法は、パワハラを(1)優越的な関係を背景に(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により(3)就業環境を害する−と定義する。これに対し経営側から「業務上の指導と線引きが難しい」との声が上がり、具体例を指針で示すことになっていた。
 指針はパワハラを六つに分類した。侮辱や暴言などの「精神的な攻撃」、仲間外しや無視といった「人間関係からの切り離し」などを挙げる。
6類型にそれぞれ、パワハラに「該当する例」と「該当しない例」を列挙したが、パワハラと認める範囲は限定的だ。あいまいな記述も多い。
 例えば「遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意しても改善されない人に一定程度強く注意する」のはパワハラではない。「一定程度」がどの程度を指すのか不明だ。注意の仕方によってはパワハラと捉える人もいるだろう。
 指針は、労働者に問題があれば、ハラスメント的な言動が許されるとも解釈されかねない。専門家は「やんちゃな子どもにはひどいしつけをしてもよい、と言うようなもの」と批判している。
 また指針では、保護の対象は社員などに限られる。フリーランスや就職活動中の学生については、「適切な対応に努めることが望ましい」としたにすぎない。ハラスメントを「職場におけるもの」と限定したのも首肯できない。
パワハラは雇用関係のない人が巻き込まれたり、飲み会など職場外で起きたりすることがある。規制法や指針の策定は一歩前進とはいえ、これでどれほどの労働者が守られるのか疑問だ。
 そもそも、規制法にはパワハラの禁止規定や罰則規定が設けられていない。法律の成立時から、実効性には疑問符が付いていた。
 6月に開かれた国際労働機関(ILO)の総会では、暴力とハラスメントを全面的に禁止する条約が採択された。対象も労働者にとどまらず、求職者や実習生、ボランティアなどと幅広い。
 日本の取り組みは国際的な基準には程遠い。政府はハラスメントを法律で明確に禁止するなど規制を強化するべきだろう。

 

この記事を書いた人