社説 出生数90万割れ 危機感持って歯止め策を
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2019/12/29 10:45 西日本新聞 オピニオン面
今年生まれた子どもの数(出生数)は90万人を割り、1899年の統計開始以来最少の86万4千人にとどまる−。厚生労働省の2019年人口動態推計でこんな見通しが示された。
深刻な数字だ。国が17年に示した将来推計で、出生数が86万人台になるのは21年と見込まれていた。それより2年も早い。国は従来の政策の限界を認め、危機感を持って原因の分析と対策の強化に乗り出すべきだ。
推計によると、19年の死亡数は137万6千人、出生数から死亡数を引いた人口の自然減は51万2千人に達し、ともに戦後最多を更新する見込みだ。婚姻件数も戦後最少の58万3千組にとどまると推計されている。
日本は結婚適齢期の女性人口減少と晩婚化が進んでいる。この流れを変えるのは容易ではない。ただ、結婚を望みながら経済的事情などで踏み切れない若者は相当数いるとみられる。
政府が進める幼児教育無償化といった子育て支援策の前段として、若い世代が安定した仕事を得て不安なく結婚に踏み出せるよう、さまざまな面からサポートする取り組みが必要だ。
労働者のうち非正規雇用が4割近くに達し、人生設計が見通せないという若者も多い。職を得ても労働時間が長い、休暇が思うように取れない、出産後の職場復帰が難しい、といった状況も結婚の阻害要因だ。そうした雇用環境の改善は急務だ。民間企業の理解も欠かせない。
核家族で共働きが主流となった今日、夫婦が複数の子どもを持つには、かつては考えられなかった苦労が伴う。学童保育の拡充をはじめ、地域ぐるみで育児を支え、子どもを事故や犯罪から守る取り組みも広げたい。
結婚・出産はあくまで個人の選択だが、希望する人には、社会全体で最大限にバックアップする。いわば「セーフティーネット」づくりが肝要だ。
今回の推計で都道府県別データは示されていないが、18年の人口動態統計(確定値)でみると人口の自然増が続いているのは沖縄県のみだ。合計特殊出生率(女性1人が生涯に産む子の数)の全国平均は15年に1・45まで回復した後、再び減少に転じ、18年は1・42に下がった。
九州の出生率は宮崎の1・72を筆頭に7県全てで全国平均を上回り、鹿児島、熊本、長崎、佐賀を含む5県が全国上位10県に名を連ねている。しかし現状のままでは、人口減が続くことに変わりはない。
言うまでもなく、子どもは地域の宝であり、また活力源でもある。国の方策と併せて、自治体レベルでも少子化対策の重要性を再確認し、対策の知恵を絞っていきたい。