2020年 2月 6日
厚生労働大臣 加藤勝信 殿
日本労働弁護団 幹事長 水野英樹
全国医師ユニオン 代表 植山直人
大学病院における無給医問題の解決に関する要請書
2018年秋の報道をきっかけとして、無給医問題(主に大学病院において、医師が労働者として扱われずに無給ないし非常に低廉な報酬で就労させられているという問題)が社会問題として認識されるようになり、当初、無給医の存在を否定していた文科省も無給医に関する調査を行わざるを得なくなりました。その結果は少なくとも 50 の大学病院で 2191 人の無給医が存在し、その他に給与が支払われていないことについて「合理的な理由があるため」と回答されたものの無給医であることが疑われる医師が 3594 人、調査中が 1304 人というものでした。これは一部の大学の不祥事と言えるものではなく、日本の大学病院に違法労働が蔓延していることを示しています。このことは、これまで労働基準監督署がこの問題に対して十分に調査・指導を行ってこなかったことも大きな要因と考えられます。全国医師ユニオンが協力して行った無給医のアンケート調査では、無給医の 73.2%が無給医問題の解決のためには労基署が大学を調査することが必要であると答えています。一方、現場の労働基準監督官からは、無給医問題が、医療現場の解決すべき課題として明確に位置付けられていないとの指摘があります。
医師の働き方改革において厚労省は、地域医療や臨床研修医・専門研修医について、健康確保措置を条件に年 1860 時間もの時間外労働を可能とする極めて危険な内容を検討しています。医師のみにいわゆる過労死ラインの約 2 倍もの時間外労働を許容することは憲法および労基法の趣旨に反すると考えます。労働者として賃金の不払いのみならず時間管理も健康管理も受けていない無給医などという違法状態を漫然と放置しておきながら、勤務医のみに非常識な過重労働を強いることは許されません。
無給医問題、及び勤務医の長時間労働の解決は、当事者医師の人権と健康確保はもとより、医療の安全と日本の医学の発展を守るための喫緊の課題と言えます。私たちは、早急に下記の措置を取ることを要請するものです。
1、厚労省として無給医問題を医療の現場で解決すべき課題であることを明確にし、各労働基準監督署長へ無給医の労働実態を明らかにするための実効的な調査を行うよう通達を発出するとともに、同旨の内容を「地方労働行政運営方針」に明記すること。なお、実効的な調査方法として、別紙「労基署が行うべき無給医の調査方法について」のとおり提案いたします。
2、上記調査により明らかとなった無給医の実態に対し、労基法等の関係法令に則った適切な措置をとること。
3、大学院生であっても診療行為を行うにあたっては労働者性が認められ、労基法等の関係法令に基づき適切に処遇する必要があることを使用者である各病院に周知徹底すること。
4、大学に所属する医師について適切な労働時間管理及び健康確保措置を行うためには、主たる就業先である大学とアルバイト先での労働時間を合算して管理する必要があることを周知徹底すること1。
5、放射線業務を行う全ての者に対して、大学病院が責任を持って電離放射線障害予防規則に基づく健康管理を行うこと2。
1 無給医の過労死事件である鳥取大学付属病院事件判決(鳥取地判 H21.10.16 労判997号79頁)はアルバイト先での労働時間を合算して大学の安全配慮義務違反を認めた。 2 被曝量を計るいわゆる「ガラスバッチ」が無給医に配布されていないという事例が確認されている。