第26回 毎日放送の過労死ドキュメントが映像祭のグランプリを受賞

文化の日を前にした11月2日、関西大学において、第28回「地方の時代」映像祭2008の贈賞式が行われました。式当日、すでに発表されていた放送局部門の優秀作品6本のなかからグランプリに選ばれたのは、2007年12月9日放送された「夫はなぜ、死んだのか〜過労死認定の厚い壁〜」(毎日放送、演出・奥田雅治)でした。

この作品は、トヨタ自動車堤工場(愛知県豊田市)で車体品質管理担当の班長であった内野健一さん(当時30歳)の過労死を、過重労働による労災と認めなかった豊田労働基準監督署長を相手取って、妻の博子さんが処分取り消しを求めて行政訴訟を起こし、大企業の働き方を変えさせるために闘った記録です。2007年11月30日、この裁判の判決が名古屋地裁であり、争点であったQCサークル活動(労働者の「自主活動」の名のもとに行われる品質管理と能率向上のための職場の小集団活動)について、「使用者の支配下における業務」と認めたことはよく知られています。

放送日と判決日とを比べるとわかるように、毎日放送の取材は原告勝訴の判決が出るよりかなり前から開始され、勝利の日を迎えるまでを丹念に追いかけています。私も判決に先だって取材を受け、まとまりのないコメントをし、それが画面に一瞬出ています。今年の春、このドキュメントのビデオを私の講義で学生たちに見せて感想文の提出を求めたところ、異口同音に、「世界のトヨタで過労死があるとは知らなかった」「労働者を守る労基署が会社の味方をするのはおかしい」と書いていました。

以下は付け足しですが、この事件についての名古屋地裁の判決は、健一さんが行なっていた創意工夫提案や、QCサークル活動について次のように判断しています。

「創意くふう提案及びQCサークル活動は、本来事業主(トヨタ)の事業活動に直接役立つものであり、また、交通安全活動もその運営上の利点があるものとして、いずれも本件事業主が育成・支援するものと推認され、これにかかわる作業は、労災認定の業務起因性を判断する際には、使用者の支配下における業務であると判断するのが相当である」。

また、判決は、死亡直前1か月の残業を45時間35とした労基署の判断をしりぞけ、死亡直前1か月の残業を106時間45分とし、健一さんの死を過労死と認定しました。これまで業務とは認められなかった「自主活動」に名を借りたQCサークル活動などの職場の小集団活動を業務と認めたこの判決は、時間外にQCサークル活動などの職場の小集団活動などの業務に会社の支配下で携わらせながら、それを賃金または割増賃金の支払われるべき残業と認めないことをサービス残業と認定し、厳しく批判したものです。なお、この判決は国側が控訴を断念したので確定しました。

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