2002年からの景気回復で大企業は空前の利益を上げました。しかし、その一方で、労働者の賃金は抑えられ、労働分配率(付加価値に占める人件費の比率)は2002年以降ずっと下がり続けました。このことを2007年『労働経済白書』は、次のように述べています。
2002年以降、労働分配率は低下傾向にあるが、これは、景気回復によって国民所得が増加したこともあるが、雇用者報酬の減少がみられるという点で、過去の景気回復期の労働分配率の低下とは異なる特徴を示している。なお、この背景としては、……所得水準の相対的に低い非正規雇用者の割合が高まったことが、雇用者報酬の削減効果を持ったことによるものと考えられる。
国税庁の「税務統計から見た民間給与の実態」によれば、給与所得者の平均給与(男女計税込み年収)は、1998年の419万円をピークに下がりはじめ、2006年には367万円まで低下しました。1998年を100とすると2006年の給与は87.7で、バブルが崩壊した1990年のレベルに落ち込んだことになります。
他方、国税庁の「税務統計から見た法人企業の実態」によれば、企業の株主への配当は、1998年の4兆6193億円から2006年の11兆7564億円へ、2.5倍に増加しました。さらに税務統計にいう「社内留保」(「当期末の利益積立金額から期首の利益積立金額を控除した金額」)は、同じ期間に17兆6247億円から52兆7896億円に増大しました。
この「社内留保」は1期(通常1年間)の内部留保の増加分にあたりますが、大企業はここ数年の景気回復の過程で、輸出の増加にも支えられて売上げを伸ばしてきた一方で、低賃金の非正規雇用を大幅に増やし、正社員の賃金も引き下げきた結果、巨額の内部留保を年々積み上げてきました。12月23日の「共同通信」配信のニュースは、トヨタやソニーなどの日本を代表する大手製造業16社がため込んだ内部留保は、2008年9月末で33兆6000億円にも上ると伝えています。
これらの巨大企業は、内部留保をはき出したり、配当を減らしたりして、非正規切りや人員削減を見合わせてもよさそうですが、いまのところどの企業もこれまでの株主資本主義――株主重視、従業員軽視――の経営を変えようとはしていません。
労働者は2002年以降の「戦後最長の景気拡大」のなかで、搾り上げられて、消費拡大どころか、今日の生活さえ覚束ない状態におかれてきました。そういう状態では、いったん経済の悪化の兆しを感じると、とたんに住宅や車や高額の家電製品は購入を差し控え、日常の必需品の消費さえ節約せざるをえなくなります。車や家電の販売不振の背景にはアメリカ、アジア、ヨーロッパへの輸出の減少があることはいうまでもありませんが、この間の構造改革の痛みにともなう国内購買力の減退が、売上げの落ち込みを大きくしていることは明らかです。
「国民経済計算」ベースの家計貯蓄率は、1990年代初めには14〜15%ありました。しかし、日本の貯蓄率が高いと言われたのは昔の話しで、12月25日に発表された2007年度の貯蓄率は、2.2%に落ち込みました。ついでに言えば、国民1人当たりのGDP(国内総生産)は、07年暦年ベースで世界19位に後退しました。まさしく「大企業肥えて、民細る」です。これでは消費が伸びるはずがありません。ここにも08恐慌の深刻さが潜んでいます。