第181回 『貧困社会ニッポンの断層』 発売から2ヵ月あまりで増刷に

本書は2012年4月に出版され、売れ行き好調につき、2ヵ月あまりで増刷になりました。これを機会にここであらためて本書の宣伝と紹介をすることをお許しください。

日本は、1980年代以降、ストライキも労働保護政策もない剥き出しの企業社会になったあげくに、新自由主義改革の実験場と化し、過労死とワーキングプアが併存する底抜けの貧困社会になりました。本書は、使い捨てられる派遣労働、低時給のパートタイム雇用、グローバル化で衰退する中小企業、消費増税と一体の法人税率引下げ、拡がる住宅貧困とローン破産、貧困の拡大にともなう受給者増で軋轢が強まる生活保護、問われる企業の社会的責任(CSR)と労働CSRの不在などを取り上げ、日本社会の貧困の諸相を問い、亀裂を深める日本社会の断層とそこから露呈する日本経済の深層を抉ることを課題にしています。

第1章「企業社会の行き着いた果てに――貧困社会ニッポンの出現」では、ストライキ件数の変化とパートタイム労働者の推移から、企業社会の成立期を1970年代の後半と特定し、男性の長超時間労働を特徴とする「働き方の男性正社員モデル」は、過労死とワーキングプアが併存し、正社員の雇用の安定が失われ、賃金上昇が期待できなくなったいまでは崩壊に瀕していることを明らかにします。

第2章「人材派遣業の膨張・収縮と経営実態――近年の製造派遣を中心に」は、製造現場への人材派遣が解禁された以後7兆円産業としてもてはやされた人材派遣会社が、2008年恐慌による大量の派遣切りで収縮に至った五年間を跡づけ、労働者を犠牲にした人件費流動化と労働ダンピングによって膨大な利益をあげた人材派遣会社の実態とその違法性を明らかにします。

第3章「パートタイム労働と女性雇用」は、1980年代後半以降における雇用の非正規化・パート化の進行に際して、ケア労働軽視の差別的な職場慣行によって女性が正規のフルタイム就労から排除され、労働条件の劣悪なパート労働へと誘引されたことを明らかにするとともに、た労働市場における女性パートに対する身分的差別が今日においても維持され、パートの低賃金化・不安定化・貧困化が再生産されている様相を考察します。

第4章「法人実効税率引き下げ論の虚構と現実」は、日本経団連の法人税率引き下げ要求を批判的に取り上げ、現行税率の実態は主張の基礎とされる40%より一割ほど低いことを明らかにし、実際の企業行動は税率以外の動機に左右されることを各種アンケートから検証し、また、世界的な租税競争についても、全地球規模での経済社会の維持可能性の視点から批判的な考察を加えます。

第5章「グローバル化のなかの中小企業と雇用破壊」は、日本企業のグローバル化と製品の逆輸入にともなう中小企業における雇用数の衰退を考察し、それが必ずしも雇用数の衰退をともなわない大企業をも含めて、日本の生産と雇用を激変させ、ワーキングプアの増加をもたらしていることを明らかにし、中小企業における雇用の回復の可能性を日本経済の根源から問います。

第6章「持家社会の居住貧困と住宅ローン問題」は、持家率がすでに6割を超えた「持家社会」における各種「居住貧困」現象を総覧するなかから、とりわけ「住宅ローン」の問題を考察します。また、住宅ローン余力ないし住宅購入余力に関連した「住宅アフォーダビリティ」概念を踏まえ、米英の動向をも念頭において、住宅ローン累積の社会経済的諸結果に論究します。

第7章「生活保護制度の現状とナショナルミニマム」は、日本社会の貧困化が拡大・進行し、生活保護受給者が約60年ぶりに200万人を超え、保護の有期化が叫ばれている状況のなかで、国民の生存権保障にとっての生活保護制度の現状と問題点を、国の保護抑制策と6年前から実施されている自立支援プログラムを中心に検討します。

第8章「労働CSRと格差・貧困」は、貧困問題は「政治と財界」が引き起こした「生活災害」であるという見地から労働CSRを考察し、企業経営が過剰なコスト削減の呪縛から解放され、「人間らしい働き方(ディーセントワーク)」に軸足を移すならば、労働者の生活維持とともに企業の持続的発展も可能になることを、それを実現させるための労組・市民の連帯の重要性を踏まえて提唱します。

なお、労働者研究者を中心とする共同研究の成果である本書は、2008年に企画された基礎経済科学研究所40周年記念出版助成の一冊として刊行されました。

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